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フランス大統領選、英米に続くサプライズは起きるか?

ニューズウィーク日本版 / 2017年1月10日 12時31分

 従って、順当にいけば5月の決選投票ではルペン氏と保革二大政党のいずれかの候補者の一騎打ちとなって、結果として反FNの共同戦線が形成され、選出が阻止されるという02年大統領選の再現となる可能性が高い。2回投票制という制度的特性と極右候補者の決選投票進出という過去の経験から来る警戒心が、ルペン氏にとっての「ガラスの天井」であり続けることになる。

 もっとも、本来は選挙で競い合うべき保革政党が反FNで一致することは民主政治における不自然な競争であり、これがFNの既成政党批判に正当性を与え続けることにもなる。ジャック・シラク大統領とジャンマリ・ルペン氏が争った02年の大統領選では、左派支持者はやむを得ずシラク氏に投票したが、この時の投票率が79.7%と第5共和制最低だったことを想起してもよい。

予期せぬ出来事、どんでん返し起こすか

 世論調査を見る限り、社会党の予備選が行われておらず候補者が確定していない段階では、フィヨン氏とルペン氏が決選投票に進み、フィヨン氏が大統領に選出されることが予想されている。もっとも、フィヨン氏が予備選で見せた保守的態度を貫いて中道の票を取りこぼし、さらに左派支持者層の反発も招くと、反FN戦線が機能せず、ルペン氏が有利になる構図が出来上がる。政治的ラジカリズムは、ラジカリズムそれ自体への支持というよりも、既成政党の弱体化と対立によって生まれる権力の空白の隙を突いて、現実のものとなるというのが歴史の教えるところだ。

【参考記事】フランスに極右政権誕生!を防ぐのはこの男?

 かつてのハロルド・マクミラン英首相は記者に「最も怖いものは」と尋ねられて「君たち、それは予期せぬ出来事だよ(Events, my dear boy, events)」と答えたという逸話がある。欧州連合(EU)離脱を問う英国の国民投票直前の難民・移民流入、米大統領選でのヒラリー・クリントン候補のメール問題再燃など、予期せぬ出来事こそが政治を動かす。仏政治がそれと無関係であると考えるのは間違いかもしれない。大統領選の展開を引き続き注視していかなければならないゆえんである。

[執筆者]吉田 徹(よしだ・とおる)北海道大学法学研究科教授1975年生まれ。慶應義塾大学法学部卒、東京大学総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。パリ政治学院招聘教授等を経て現職。現在、フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)日仏財団(FFJ)研究員。著著に『ミッテラン社会党の転換』、『ポピュリズムを考える』、『感情の政治学』、『「野党」論』、共編著に『グローバル化のなかの政治』、『ヨーロッパ統合とフランス』など。


※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。




吉田 徹(北海道大学法学研究科教授)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載


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