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トランプの2017年は小説『1984年』より複雑怪奇

ニューズウィーク日本版 / 2017年1月31日 21時18分

<ドナルド・トランプが大統領に就任した1月、ジョージ・オーウェルが68年前に書いた反ユートピア小説『1984年』がアメリカのアマゾン書籍売り上げトップに躍り出た。大統領就任式の参加者の数を「史上最高」と強弁し、嘘を「オルタナティブ・ファクト(もう1つの事実)」と言いくるめる政権の手法が、独裁政権が徹底して情報を管理するオーウェルの名作を思い起こさせたのかもしれない。だが両者の間には決定的な違いがある>

 ドナルド・トランプが米大統領に就任してから1週間で、英作家ジョージ・オーウェルの小説『1984』の売上げが急増、米アマゾンの書籍ベストセラーになった。今の時代を読み解く1つの手段として、多くの人が1949年に出版された書物を頼りにしているのだ。

 小説の舞台は1984年の「オセアニア」。世界を分割統治する3つの超大国の1つで、残された地域の領有権をめぐって互いに戦争を繰り返す。1950年代の核戦争以降は、核兵器を使わない戦争を永久に続けることで合意する。戦争状態を保てば、支配層が国内を統治するのに都合がよく、3大国の共通の利益に適うからだ。

 オセアニアは、国民に絶対的服従を求める。上空を飛び回るヘリコプターが人々の行動を監視し、屋内にいても窓の外から見透かされるような警察国家だ。だがオーウェルは、党のエリートを除く下位85%の被支配階級「プロール」と呼ばれる労働者たちを本当に監視しているのは、「シンクポル」と呼ばれる思想警察だと強調する。彼らは密かに一般社会に入り込んで思想犯罪を捜査し、わざと犯罪をそそのかしたりもする。目的は、犯人を連行して改心させ、場合によっては初めからこの世に存在しなかったことにするためだ。

「無知は力なり」

 口ひげをはやした絶対君主「ビッグ・ブラザー」をはじめとする党のエリートが推奨し、警察が思想統制に使うもう一つの手法が「テレスクリーン」だ。壁面に掛かるモニターは、恐怖を煽る敵国兵士の映像やビッグ・ブラザーの偉大さを称えるプロパガンダを映し出す。同時にテレスクリーンは監視カメラとしての機能も持つ。朝の一斉体操では、手本を見せる若いトレーナーの姿を流すだけでなく、市民がまじめにやっているかどうかも監視する。社会のどこに行っても、この目から逃れられない。

 事実を支配し、ゆがめる国家に疑念を抱く主人公のウィンストン・スミスとヒロインのジュリアを中心にストーリーは展開する。2人の反抗の手段は、過去に関して国家がひた隠しにしてきた真実を見つけ出し、国家が存在を認めていない情報を日記に記録することだ。ウィンストンの勤務先は、建物のあちこちに「無知は力なり(IGNORANCE IS STRENGTH)」というスローガンが掲げられた巨大組織「真理省」。仕事は、新聞など過去の記録から、国家に都合の悪いデータを消去すること。例えば、ある女性党員が上層部の寵愛を失ったら、彼女の存在ごと消し去る。ビッグ・ブラザーが約束を反故にしたら、約束自体がなかったことにする。

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