ロシアとトルコの主導で、シリアは和平に向かうのか?(後編)
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月7日 16時20分
【参考記事】ロシアとトルコの主導で、シリアは和平に向かうのか?(前編)
さらに困難なのは、西バルカンルートの出発点となったトルコには、いまもって270万人ものシリア難民が滞留していることである。ヨルダンとレバノンにも100万人近い難民が逃れている。昨年の3月、EUとトルコは難民問題についていくつかの取引をした。これ以上、トルコからEUに難民を流出させないことと引き換えに、トルコが少なくとも30億ユーロの資金援助を受ける。EU側で難民とは認定されなかった人をトルコに送還し、トルコは明確に難民と認められる同数のシリア人をEUに送り出す。さらに、トルコ国民はEUおよびシェンゲン圏諸国にビザなし渡航の権利を得る。最後のビザなし渡航は、難民問題とは無関係だったにもかかわらず、トルコを説得するためにEUが与えた飴玉である。
だが、結果的に現在までEUはこれを実現せず、トルコは約束を反故にされたのではないかと怒りを募らせている。トルコ政府は、再三にわたり、ビザなし渡航が実現されなければ、再度、難民をEU側に流出させると警告しているが、難民の存在を外交交渉に利用するトルコもEUも人権団体から厳しい批判を受けている。
トルコとしては、膨大な数の難民をこのまま抱え続けることなどできない。では、どうするのか? やはりシリアに戻さなければならないのだが、アサド政権の暴虐を非難し続けてきたエルドアン政権としては、難民の安全を確保したうえでないと帰還させることはできない。高い技能をもつ優秀な人材にはトルコ国籍を付与するとエルドアン大統領は発言しているが、そういう人達の多くは、すでにドイツなどヨーロッパに渡っているから少数に過ぎない。
鍵を握るロシアとトルコ
難民を帰還させるには、内戦以前のようなアサド政権による恐怖の統治を継続させることはできない。アサド大統領は、自国民を虐待する大統領がどこにいるだろうかと平然と発言しているが、さすがにそれを信じる難民はいない。この戦争で、最も多くの自国民を殺害したのが空軍力をもつアサド政権とロシア軍であることは確実で、難民はこのままでは怖くて帰還できない。かといってアサドに退陣させるという選択肢も全く非現実的である。烏合の衆にすぎない反政府勢力に統治能力などない。そこで、東アレッポの反政府勢力が敗北した段階で、ロシアとトルコが、いわば和平の「保証人」となるかたちで停戦に持ち込んだのである。
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