ロシアとトルコの主導で、シリアは和平に向かうのか?(後編)
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月7日 16時20分
だが、シリア東部から北部の地域の帰趨は明らかになっていない。仮に「イスラム国」を壊滅できたとしても、シリア北部で「イスラム国」と戦ってきたクルド勢力に自治権ないし独立を与えることは隣国トルコが絶対に容認しない。北シリアのクルド武装勢力(PYD=統一民主党/YPG=人民防衛隊)は、トルコ国内でテロ組織とされる極左のPKK(クルディスタン労働者党)の兄弟組織だからである。トルコは、アスタナでのシリア和平会合にクルド勢力の参加を断固として認めなかった。
ここで最初に指摘したアメリカのプレゼンスの低さに戻ることになる。シリア問題に関して、オバマ政権のアメリカは「イスラム国」壊滅のために有志連合を組織したが、地上部隊を送らず、現地のクルド勢力を支援するかたちで介入した。この他人任せの介入が、この地域の将来をさらなる混乱に導くことになる。トルコは、NATO加盟国であるにもかかわらず、現在、アメリカとの関係は冷え込んでいる。アメリカが「イスラム国」掃討のためにクルド勢力のバックについたことだけでなく、昨年7月15日に起きたクーデタ未遂事件の首謀者とされるフェトフッラー・ギュレンというイスラム指導者のトルコへの送還に応じないためである。彼は1999年以来、ペンシルバニアに拠点を構えたまま世界中の支持者の活動に指示を出してきた。
アメリカとの関係がこじれるにつれて、トルコはロシアに接近した。2015年の10月には、作戦行動中のロシアの戦闘機が領空侵犯したとしてトルコ軍機が撃墜したため緊張が走ったが、一年もたたないうちに、蜜月の関係となったのである。トルコとしては、ロシアと共にシリア和平の「保証国」としての地位を固め、アサド政権の支配がおよぶ領域に制限を加えようとしている。ロシアがアサド政権側をおさえこみ、トルコは反政府勢力側をおさえこむことによって停戦を維持すると同時に、トルコ国境と接する一部に「安全地帯」を設置させて、そこはアサド政権の手が及ばないようにしようとしている。安全地帯上空をアサド政権軍に対して飛行禁止にすれば、難民の一部を帰還させることが可能となるからである。
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トルコにとっては、隣国シリアがどのような体制であろうと関心はない。トルコがシリアへの軍事介入に踏み切ったのは、第一に、アサド政権の攻撃を逃れてトルコに流入した難民の多くがスンナ派ムスリムであり、同じスンナ派のイスラム主義を採るトルコのエルドアン政権にとって見捨てることができなかったからである。ただし、同情だけではトルコ軍の直接介入には至らなかった。世界中から集まるジハーディストがトルコを通過してシリアに入るのを黙認したにすぎない。
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