「遺伝」という言葉の誤解を解こう――行動遺伝学者 安藤寿康教授に聞く(その1)
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月21日 15時10分
どんな形質にも相加的遺伝と非相加的遺伝両方の影響がありうるのですが、僕は特に「量」で測られる形質は相加的遺伝の影響を受けていると考えています。身長や体重もそうですし、知識量や体力などの能力も「量」として存在します。
これに対して、非相加的遺伝の影響が強い形質は、「質」的な違いとして現れるものだと思うんですね。「AさんはBさんに比べて語彙が2倍」ということなら量的に測定できるでしょうが、「Aさんの明るさはBさんの2倍」とは、まあ言えないことはないけど、ちょっと違和感を感じますよね。これはもう「質」的な違いです。白砂糖と黒砂糖とどっちが甘い? って、比較できないわけではないけど、舌に乗せたときの触感や風味が違う世界じゃないですか。それが「質」的な違いというもので、人間の性格なんかはそっちの方に入る形質だと思います。そういう形質には、相加的遺伝だけじゃなく非相加的遺伝の影響も表れやすいんです。
顔の美醜もそういうものだと考えられます。両親は2人とも平凡な顔立ちをしているけど、子どもがとてもきれい、あるいはその逆ということはあるじゃないですか。鼻の高さだとか眼の形だとか個々の要素は両親によく似ているんだけど、組み合わせによってその子ども独特の形質が現れてくるわけです。
行動遺伝学では、一卵性双生児と二卵性双生児を比較して遺伝率を調べます。相加的遺伝に関していえば、おおむね二卵性双生児は一卵性双生児の「半分程度似る」わけですが、非相加的遺伝が強い形質ならば「半分ほども似ない」ことになります。
親から子への伝達に関しても、相加的遺伝の強い形質であれば「子どもの形質は、両親の中間値からさらに平均の方向に寄る」可能性が高いわけですが、非相加的な要素が強いほどパターンはもっと複雑になり、子どもの形質が両親とはほとんど無関係になる可能性が高くなります。
大学の無償化に意味はあるか?
――最近、親の収入格差や文化的な違いが子どもの教育機会の不平等をもたらしているという議論が盛んになってきています。「大学の無償化」を主張する人がいる一方で、大学に行くことに価値を見出さない「意欲格差」の問題を指摘する人もいますが、行動遺伝学の立場から教育格差の問題をどう見ますか?
安藤:この問題については、さまざまなパターンがひとくくりにされてこんがらがっているように思います。大学進学をしないのが意欲の格差だというのは、分析として粗い印象を受けますね。
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