収入を決めるのは遺伝か親の七光りか:行動遺伝学者 安藤教授に聞く.2
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月24日 16時30分
もちろん、どういう仕事に就くことになるかについては、たまたま遭遇した社会的な文脈も大きいですよ。例えば、一卵性双生児の片方が日本で銀行員になり、片方が何かの事情でアフリカに行くことになったとして、後者がアフリカでは日本の銀行員で発揮されるような素質では通用しないかわりに、まったく違う職業適性を見つけることもあり得ます。それは遺伝と環境の交互作用、つまり違う環境ではちがった素質が出てくるという現象として理解されます。
収入と遺伝の相関を調べた研究が示しているのは、少なくとも今の日本において、学校を卒業してから20数年間のうちに人が行う収入に関わる行動の出方や環境の選択には遺伝の影響があり、人はある程度、その社会の中で向かうべくして向かう方向へ動いているらしい、ということなんです。
――一卵性双生児であっても、入試の成績が数ポイント違ったことで違う学校に進み、それによって人生が大きく変わってくることはありそうな気がしますけど。
安藤:程度問題ですから、多少の差は出てくる可能性はもちろんあります。しかし、この研究が示しているのは、全体として見ると学校の違いがその後の人生における収入の劇的な差にはつながっていないということですね。学校の違いはもともと能力や才能の違いを反映していて、たまたま違った学校に行かざるを得なくなったとしても、結局はもともとの持ち味がその後のいろんな場面でものを言ってくる、ということなんだと思います。
遺伝でなく、環境で収入が決まるのはよいことか?
――ただ女性の場合、収入に対する遺伝の影響は、生涯にわたりほぼゼロということでした。
安藤:そうなんですよ。日本においては、男性のほとんどは就労しているので、遺伝的な影響が仕事そして収入に現れてきます。仮に、日本でも女性のほとんどが就労していれば、男性の場合と同じように収入に対する遺伝の影響が出てくるでしょう。この研究では、就労している女性とそうでない女性を区別していません。ただそうした違いまでふくめた女性全体を眺めたとき、何らかの才能があってもそれを収入を得るという形では発揮せず、あるいは「女だから」とみなされて発揮できず、例えば家庭を支えることを選択する女性が一定数いる、といったことを表していると考えられます。
――男女で遺伝的な能力差のようなものはあるのでしょうか?
安藤:男性は女性よりも数学的な能力に優れ、女性は男性よりも言語的な能力に優れているという傾向は見られます。
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