収入を決めるのは遺伝か親の七光りか:行動遺伝学者 安藤教授に聞く.2
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月24日 16時30分
個人差を包摂した社会
――アメリカではトランプが大統領になり、移民の入国を制限する大統領令を出しました。ヨーロッパでも移民の制限を主張する政党が勢力を拡大していますが、そうした政策を支持する人たちが増えているということですよね。これらの動きをすべて遺伝で説明しようとするのは不適切だと、書籍には書かれていました。しかし、「あらゆる能力は遺伝の影響を受ける」というのであれば、他人に対する共感性や想像力についても個人差があるのではないでしょうか? また、「あらゆる文化は格差を広げる方向に働く」ということですが、ソーシャルメディアなどのツールがこうした共感性や想像力の格差を広げているということはありませんか?
安藤:そういう風にも言えるかもしれませんね。しかし、科学的な知見を、社会的な行動に移す際の原則は、自然主義的誤謬をしてはいけないということ。要するに、「事実がこうである」ということと、「こうであるべき」ということをすり替えてはいけません......と言いつつ、前回の記事で僕も教育の無償化については、「確信犯的に」このすり替えをやりましたが。
「自分たちと違う奴らと交わりたくない」という人たちが一定数いることが事実であっても、そういう人たちを排除することがよいことかどうかはまた別問題です。その解がどんなものになるのかは僕にはまだわかりません。ただ1つ明確だと思われるのは、特定の人を排除することを正当化するロジックは成り立たないと思うんですよ。そのロジックによって、自身も排除されるわけですから。
2016年の相模原障害者施設殺傷事件を起こした犯人は、「障害者なんていなくなってしまえ」という趣旨の供述をしていると報道されましたが、その結果本人が危険人物として社会から排除されました。
移民が多くなることで職が奪われたりテロの潜在的脅威が増す、健常者が食うのに困っているのに障害者がぬくぬく生きている、そんなのは理不尽だ、だから移民入国を制限しろ、障害者はいなくなれ。問題を視野狭窄的にそこだけ見れば、一見それが問題解決になるように見えるのかもしれない。しかしそうして排除された人たちはどうなるのか。そうさせている原因は、排除しようとする人たちにもあるんですからね。気に食わないヤツがこの世界からいなくなっても問題解決にはならないなんて、ちょっと想像を働かせればわかることじゃないですか。
トランプのやり方についても、たぶんそのままやろうとしてもうまくはいかないと思います。ただ彼を選んだ人があれだけいるという事実は、そういう想像力すら働かせられない状況がまだ解決してないアメリカ社会を、そして人類史の今の段階を表しているということなんでしょう。
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