アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月31日 11時10分
カビが食材として国外から入ってくるというのはアメリカ側としては受け入れられないので、かつお節を丸のまま輸入するのは違法だ。だが日本政府が交渉してくれた結果、真空パックの削り節に限り認められるようになった。
饗屋では大量の出汁を使うので、愛媛のカツオ問屋さんに自分が調合した削り節を送ってもらっている。直火で炙ったカツオにしているのでかすかにスモーキーで、うちの出汁を飲んで感動してくれるアメリカ人はたくさんいる。
饗屋に来るアメリカ人のお客さんは日本食通であり、味に対してプロフェッショナルな方達が多い。そんな彼らが喜ぶのが出汁だ。
――特にアメリカ人に人気のメニューと言えば。
胡麻豆腐、サツマイモの天ぷら、海老しんじょう、豚の角煮......。魚だと、西京焼き。
今は「銀鱈の粒味噌焼き」が定番だが、うちでは「白粒味噌」にみりん等の甘みを加えないまま使っているので、一般的な西京焼きと違って甘くない。味噌自体がおいしいので、味噌の甘さだけで出している。
これを食べたアメリカ人はみんな、どこで食べても普通は甘いのにここは甘くないよねと言う。アメリカ人は甘いのが好き、と言われるが、そうではない人もたくさんいる。
アメリカ人に人気の「銀鱈の粒味噌焼き」。一般的な西京焼きと違って甘くない Satoko Kogure-Newsweek Japan
あと人気があってやめられないのが、「鰻有馬煮のサンドウィッチ」(ウナギのかば焼きをバターを塗った食パンに挟んだメニュー)。ニューヨークの人は皆さんウナギが好き。ウナギのタレの、バランスのとれた甘辛が好きなのだろう。
鰻丼も、甘すぎるところだとたくさんは食べられない。すごく甘いと途中で飽きてしまって、「美味しかったけどもうお腹いっぱい」となるが、ちょうどいいバランスの甘さだと最後まで全部食べられて、「あぁ、美味しかった!」と言える。
「鰻有馬煮のサンドウィッチ」。ニューヨーカーはウナギが好き Satoko Kogure-Newsweek Japan
【参考記事】世界も、今の人たちも、和食の素晴らしさをまだ知らない
目の前の人にご飯を作ってあげたいのが料理人
――園さんにとって、料理とは。
自分も含めて、人が幸せになれる人生の材料。自分の場合、料理をしていて一番ハッピーになれるのは実は自分自身だ。
もしかするとちょっと上から目線に聞こえるかもしれないが、料理人というのは、どんなに忙しくても、へとへとになっていても、目の前の人にご飯を作ってあげたいと常に思える人でないとダメだと思う。
疲れている人を見たら、何を作ろうかなと勝手に考えてしまっている。ご飯を作って相手が喜んでくれたら、自分がものすごくハッピーになる。料理とは、自分が幸せになれるツールなのかもしれない。
――今の夢は。
昔は自分で店をやることだったのだが、それはタイミングの話なので。今年で饗屋は10年になるが、常にチームとしてやっている。一緒に仕事をして17年くらいになる人が1人いて、10年いる人も3人。日本やヨーロッパからうちで働きたいと電話をかけてきて、雇った若い人たちもいる。
ストイックで情熱があって、こいつは雇いたいな、と思った若い人が期待に応えてくれると、自分も嬉しい。この人たちがいないとな、と思う今のチームは、自分の料理の一部だ。
彼らが巣立っていって、どこかの店で料理長を務める。そこまでのサポートというのが、夢というより目標だ。
小暮聡子(ニューヨーク支局)
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