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子供、子供、子供――マニラのスラムにて

ニューズウィーク日本版 / 2017年4月20日 16時40分

すべて壁を這った電線やら電話線らしきものとつながっているのだが、正規の支払いがなされているとはむろん思えない。盗電であり、盗電話線に違いなかった。それがスラムの娯楽であることを自分は予想だにしていなかった。

洗濯する者、あまりに狭い道の脇に机を出して食べ物を売る者、意味もなく石畳のようなものの上に座っている老婆がいた。家々の中は総じて暗く、しかしビニールの暖簾めいたものが風でちらりとめくれると、3畳ほどのやはりビニール貼りの床の上に母親と息子らしき青年、そして赤ん坊が皆寝転んでテレビを見ていたりした。

ジェームスたちはなお黙ってスラムの中央を目指した。いやどこが中央という概念はないのかもしれなかった。路地は路地につながり、どこまでも果てがないように思った。

とにかく子供が多かった。髪の毛がくしゃくしゃなのは男児も女児も同じだった。

どこまで行っても子供が走り、子供が立ち尽くし、子供が笑い、子供が体をぶつけ合わせていた。それが道ゆく俺たちの周囲に、あたかも絡まるように現れては消える。

遠くからリカーン(フィリピンで古くから活動している団体)の通称リナ、マゴアリナ・D・バカランドの声がした。俺たちの隊列がそこを目指しているのはいまや明らかだった。



ある路地を抜けて石造りの家の横を右に折れるとちょっとした広場があり、バスケットコートになっているのがわかった。そこに70人ほどの女性が集まり、プラスチック椅子に座って向こうのリナの話を熱心に聞いていた。どこかで鶏が鳴き、やっぱり子供が母親たちのまわりで走ったりコンクリの上で寝転がったりしていた。

俺たちが近づくと、女性たちは闖入者が珍しいのだろう、気にしないふりをしながらわかりやすく動揺してこちらをちらちら見た。リナは慣れたものでまったく調子を変えず、熱弁をふるった。女性たちはすぐにそのスピーチに注意を戻し、笑ったり質問をしたりした。

ロセルに聞けば、リナは1日に3セッションを担当するのだそうで、俺たちが見ているのはまさに朝一番のものらしかった。なにしろ巨大バランガイなので集合する者が幾つかに振り分けられているとのことだった。

リナの講義を女性たちは熱心に聞く

テーマはもちろん避妊と子宮頸癌。だからこそ女性たちは真剣に聞いた。彼女たちは避妊を切実に求めているそうだった。まわりを見ればよくわかる。子供は日々産まれて来る。夫は避妊に協力的ではない。ゆえに彼女たちが意識を高めなければ、貧困はより過酷になる。それは結局、産まれる子供に重圧をかけるのである。

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