対北経済制裁をいかに効かせるか、過去の中国の「失敗」に学ぶ
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月17日 16時43分
この制裁では、中国が鍵を握る。この点でトランプ政権は習近平政権の協調姿勢を「ほめ殺し」とも言える程の持ち上げようだ。だが内心では、今回も中国の「本気度」に疑いの目で見ているだろう。それに備えて、政権交代と武力行使の選択肢を次の段階として準備する。現段階では「中国に影響力がないのか、それとも影響力を行使しないのか」を見極める構えだ。
他方、習政権は国連決議を守る姿勢を見せながらも、中国の役割については「限界」をたびたび表明する。「問題解決の鍵を握るのは中国ではなく米国だ」との立場である。北朝鮮による核放棄の意思表明を前提条件に、平和協定締結に向けた「米朝直接対話」の必要性を繰り返す。
この中国の姿勢は、単なる言い逃れの「方便」なのか、それとも「本音」なのか。結論から言えば、両方とも正しい。
大量の開発物資を既に備蓄
制裁の目的が北朝鮮の核兵器開発を技術的に阻止することにあるなら「手遅れ」だ。06年に発動された国連制裁は、北朝鮮に対する核兵器開発関連物資の禁輸が中心だった。だが、中国が同調しなかったせいで制裁の効果は十分には上がらなかった。その間、北朝鮮は、将来の制裁強化に備え、既に相当量の開発関連物資の備蓄を終えている。
経済制裁では、北朝鮮から核ミサイル開発の「能力」をもはや奪えない。そうなら「意志」をくじくしかない。だが、金正恩政権は核保有を「生命線」と公言する。
上述したように、経済制裁は政権交代の道具立てとしては元から不向きだ。実際、ティラーソン米国務長官は「北朝鮮の政権交代を目指すものではない」と言明した。現状の「制裁局面」を踏まえた妥当な発言だ。
【参考記事】北朝鮮をかばい続けてきた中国が今、態度を急変させた理由
同じように、中国も自身の役割の「限界」を苦い経験から痛感する。20年ほど前、一般的にあまり知られていない事実があった。1992年、中国の江沢民政権は北朝鮮の金正日政権に「本気」で無言の独自制裁を仕掛けた。その理由は北朝鮮の秘密核開発だった(これについては本誌16年12月6日付の拙稿「【北朝鮮】第2次朝鮮戦争に突き進む? 北朝鮮-核・ミサイル進展で日本の切り札でなくなる拉致」参照)。
制裁継続する意思を
91年のソ連崩壊で、北朝鮮は経済面で危機に直面したのと同時に、核兵器開発の好機に恵まれた。旧ソ連圏の混乱に乗じて、ウクライナとカザフスタンから合計3個ほどの小型核弾頭をひそかに入手した。これに加えて、失業したロシアの核技術者を高給で雇い入れ、核兵器開発を本格的に始動した。
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