対北経済制裁をいかに効かせるか、過去の中国の「失敗」に学ぶ
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月17日 16時43分
【参考記事】北朝鮮・シリアの化学兵器コネクション
中国は北朝鮮の不穏な動きを察知、早くも92年に北朝鮮への食糧と原油の援助を急激に絞った。中国に無断で進める核開発の阻止が目的だった。これが直接的な引き金となって、90年代後半に北朝鮮で未曽有の大飢饉が起きた(これについては拙稿「『反中国の怪物』になった金正恩」「Voice」16年5月号参照)。
94年には北朝鮮への経済支援と引き換えに核開発を凍結する「米朝枠組み合意」(ジュネーブ合意)が締結された。それでも江政権は決して警戒を解かなかった。90年代全般を通して、10万人規模の難民の大量流入を見ながらも、独自制裁の手を緩めなかった。
それでも金正日政権は中国の制裁圧力に屈しなかった。30万人とも100万人ともされる餓死者を出しながらも、核兵器開発の意志を貫き通した。飢饉(ききん)最盛期の98年には、弾道ミサイル供与の交換条件による「代理実験」方式で、パキスタンで北朝鮮製原子爆弾の地下核実験に初めてこぎ着けた。同年には韓国では「太陽政策」を唱える金大中政権が誕生した。
この親北左翼政権の登場を見て、江政権は独自制裁に終止符を打つ。韓国が北朝鮮への経済支援に乗り出せば、中国の独自制裁が効き目を大きく失うことになるからだった。そこで江政権は経済制裁の限界を悟り、安全保障上の「次善の策」として00年には対北支援に逆戻りした。これで北朝鮮の大飢饉は終息したが、北朝鮮の核兵器は増え続けた。
死屍累々の惨状の上で、北朝鮮は中国との経済制裁の持久戦に「勝利」した。北朝鮮が大飢饉を「苦難の行軍」と称するゆえんだ。ともあれ、この経済制裁は、北朝鮮の国民を極限まで苦しませたが、北朝鮮の独裁者の野望をくじくことはできなかった。
何が欠けていたからなのか。経済制裁以外の選択肢が欠けていた。関係諸国には、あらゆる選択肢をテーブルの上に用意する「能力」はあった。だが、それを行使する「意思」を欠いていた。
[執筆者]
李英和(リ・ヨンファ)
関西大学教授(北朝鮮社会経済論専攻)
1954年12月22日大阪府生まれの在日朝鮮人三世。大阪府立堺工業高校機械科卒、関西大学経済学部(夜間部)卒業、関西大学大学院博士課程修了(経済学専攻)。関西大学経済学部助手、専任講師、助教授を経て現職。91年4月~12月、北朝鮮の朝鮮社会科学院に留学。93年にNGO団体「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」(RENK)を結成、現在、同代表を務める。著書に『暴走国家・北朝鮮の狙い』(PHP研究所、2009年)など多数。
※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
李英和(関西大学教授)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載
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