南スーダンからの80万人
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月21日 19時10分
車が中の急勾配を登ると、左右にコロニアル風の建物があり、左側のそれの入り口に屋根つきの大きいポーチが見えた。そのポーチの下に、数人の外国人スタッフがいるのもすぐにわかった。車から降りた我々はいつものスタイルで、彼らに近づいて一人一人に握手をし、もちろん名前を名乗った。
中で最も我々を待ちわびた様子であったのが、中背で少しだけ太った中年紳士ジャン=リュック・アングラードで、くしゃくしゃの髪の毛に度の強い眼鏡をかけたにこやかなフランス人だった。谷口さんは本当にうれしそうに彼の名を呼んで抱擁を交わしている。聞けば、ジャン=リュックはMSF日本支部でオペレーション・マネージャーとして4年半勤務し、家族と共に住んでいたのだという。それが今度はウガンダで会うというのだから、いかにも『国境なき医師団』らしい再会なのだった。
宿舎にいるメンバーと食事の有無を示すボード
それぞれあてがわれた部屋に荷物を置き(ポーチのある建物が宿舎、急勾配の道の右がオフィスになっていた)、少しゆっくりしてからオフィスへ向かうと3階まで上がった。そこに活動責任者ジャン=リュックの部屋があった。
彼は実に優しげに人なつっこく笑う人で、笑うと八重歯が見えてかわいらしかった。アフリカ人の奥さんとの間に三人子供がいるうち、二人はフランスに残り、14才の男の子を連れてきているという。そして残った二人のうちの一人はミュージシャンで、その場で映像を見せてもらったがこれがかっこいいファンクバンドのボーカルなのだった。ジャミロクワイ的な粘りの声、そして弾むリズム感が素晴らしく、俺はついつい見入った。
そしてジャン=リュックもまた、俺が音楽をやると知っており、ユーチューブで探せるかと熱心に聞いてきた。もちろん教えたし、どうやらその夜には全部見ていたようだ。
それはともかく、彼は今回2年間のミッションでウガンダに来ており、これまではチャドに3年、東京に4年半、その他活動責任者としてアンゴラ、エチオピア、ケニア、モザンビークに派遣された実績があった。学生の頃から水・衛生に関する勉強を重ねており、母国の公衆衛生局で技師として勤務していた。そんな中、初めての国外旅行でアフリカを訪れ、ブルキナファソでNGOの活動を目にした際、「これこそやりたいことだ!」と確信したのだそうだ。
すでにそういうキャリアがあったため、MSFを選んだ時にもトレーニング期間は短く済んだと言うから、彼はNGOにおける大変優秀な特待生のようなものではないかと俺は思った。人を助けるべくして研鑽を積み、粛々とその知見を生かし続けているのだ。
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