南スーダンからの80万人
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月21日 19時10分
ということで、ジャン=リュックは基本的には「WATSAN(water and sanitation 水と衛生)」を中心とする環境整備にいそしむロジスティシャンとして活動を始め、そこにくわしいリーダーとして活動責任者を務めるようになったわけだった。確かにのちのち、俺もアフリカのキャンプで水がどれほど大切かを知ることになる。
さてそのジャン=リュックが力を尽くすウガンダの困難とは何か。
それが先ほども書いた南スーダンからの難民問題なのだった。
「昨年2016年の7月8日からそれは始まった」
とジャン=リュックは資料をテーブルに広げて言った。彼の指さす場所に棒グラフがあった。
ジャン=リュックは語る。
「日々、難民が到着し始め、最初の7月に5万人以上が移動してきたことになる」
グラフではそこから月ごとに増減はあるもののほとんど変わることなく、今でも一日に平均2000人が流れ込んでいた。世界史の教科書に書かれるであろう、とんでもない民族移動である。
それが今の今、起こっているのだった。
「我々MSFは7月からすぐさま水の供給にも入った。国際機関や他のNGOは食糧や住宅と、互いに緊急に分担を決めて動いたんだ。7月25日からはその直前に伝染病が始まるおそれも見られたため、我々はコレラ対策も緊急始動した」
重ねて書くけれども、これはたった1年前、いやほぼ半年前に起きたことであり、現在も終わっていない事態である。
原因は2013年から再燃した南スーダン政府軍と反政府軍の紛争である。衝突は続き、何万人もの人が亡くなっているし、おそらく今日もまたどこかで家を焼き払われ、レイプが起こり、自軍に入れるために誘拐される子供がいる。
「8月、5万人。9月、8万5千人」
もう一度確認するようにジャン=リュックは言った。ジュバで激しい銃撃戦が起きた。日本では自衛隊が初めて武器携行をしての出動をするということで、ジュバで起きたことを「武器を持った衝突」と呼んだ。「戦闘」ではないということだったが、俺には意味がよくわからない。
これほどの人数が我が家を捨てて逃げなければならない事態だが、10月には我が国の防衛大臣が7時間の滞在のあと「状況は落ち着いている」と言った。まさにその間、南スーダンの人々は先祖伝来の畑と別れ、家族を亡くし、命からがら国境を越えていた。
「昔からウガンダには、例えばコンゴ共和国やあの大虐殺のあったルワンダから難民はやって来ていたんだが、南スーダンのケースはあまりに数が多い。したがってすぐに計画を立てて出動したんだよ。だけどいつ終わるか、まったく読めない。軍同士の戦いに加えて部族のいさかいも持ち込まれて、混乱した状況が続いている」
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