1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

風呂に入れさせてもらえないか──ウガンダの難民キャンプで

ニューズウィーク日本版 / 2017年7月4日 17時30分

「わたしもその風呂に入れさせてもらえないか。ずっとまともに体を洗っていないんだよ。君と一緒に移動して、そこで入れればどんなにありがたいか」

俺は答えに詰まった。ビディビディまで1時間以上かかるはずだった。そこからこのインデピまで戻る時間もおそらくない。それどころか自分がどんな場所に宿泊するのかさえ、本当のところ知らなかったし、そこにシャワーがあるかどうかも不明だった。谷口さんに聞こうにも、彼女はどこか別の場所で別のインタビューをしていた。

「出来ません。すいません。遠いんです。つれて行けないんです」

女の子たちもそこには一切口を出さずにいようとしていた。俺はおじさんの目をずっと見ているつもりだったが、その充血した青灰色の目が心の底からの願いを訴えているのがわかるだけに、とうとう下を向いてしまった。

「すいません」

もう一度そう言うと、おじさんもまたもう一度言った。

「ずっとまともに体を洗っていないんだよ」
と。

俺は黙ってうなずくしかなかった。



5人の子供を連れて

おじさんの横から立ち上がり、谷口さんを探すと違う施設の前で女性患者に話を聞いていた。患者の手の中には頭蓋骨の少し変形した幼児が抱かれていた。そっちはそっちで離れることの出来ないインタビューだったのだ、とわかった。

女性患者はジェーン・キデンと言い、二十代前半だと思われた。厳しい表情で黙っている彼女の代わりに谷口さんがそれまでの話を教えてくれたところによると、ジェーンさんは先週の木曜日にやはりカジュケジからウガンダへと逃げて来たのだった。彼女の場合、国境まで2週間かかったそうだった。

住んでいた場所を襲撃され、殺されるか彼らについていくかしかなくなり、逃げる以外に選択がなかった。市場も何も破壊され、生活の方法も奪われていた。

だからこそ5人もの子供をつれて、彼女はウガンダへと越境し、今は「タンク32」(水を補給するタンクの数字が彼ら難民の住所なのだ)にいる。まず何よりも体調を崩した子供の回復を願い、それがかなったら元の南スーダンに帰りたいと彼女は厳しい表情を崩さないまま俺たちに言った。

俺はしばらく沈黙していたあとスマホを取り出してジェーンさんの横に座り、カメラをセルフの方に切り替えてモニターを見せた。そこには俺とジェーンさんが映っていた。

それを見てジェーンさんは驚きながら笑った。俺もその声を聞いて思わず笑った。

写真はその瞬間のものだ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください