ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(後編)
ニューズウィーク日本版 / 2017年9月21日 12時0分
ヘベカーによれば、難民というだけであれば理論的には帰国した際に自国民と同じ権利が与えられる。だが無国籍難民にはその保障がない。「スリランカやタイ、ソ連解体後の旧連邦国家でも無国籍の問題があり、UNHCRはそうした政府に対する専門的な支援を行った実績がある」と言う。
「ミャンマーでもこの経験が役に立つと思うが、その前に必要なのはミャンマー政府の政治的決断だ」。その決断とはロヒンギャを自国民として受け入れるということだが、今のミャンマーにその意思はみじんも見られない。
政府に今も影響力を残す軍と多数派の仏教徒に配慮せざるを得ないスーチーは、昨年10月から続く軍の掃討作戦が「虐殺ではない」と繰り返し、「ミャンマーに対する批判は公平を欠く」と、逆に国際社会を非難している。
「アジアのシリア」にミャンマーがなる日
ゾーミントゥット(日本在住のロヒンギャ)らが暮らす日本の難民政策は世界的に見てかなり遅れていると考えられている。一部で改善があるのも事実だが、後先を考えない規制撤廃によって、本来難民には当たらない人物の申請を増やし、本当に庇護されるべき人が不利益を被っている。
「表現できないような極度の貧困バラック地帯だった」。7年前、バングラデシュ南部にあるロヒンギャ難民キャンプを訪れたことのある公明党の遠山清彦衆議院議員は、当時の様子をこう語る。UNHCRが設営した難民キャンプは医師なども常駐しており最低限の生活保障があった。
遠山が目を奪われたのは、その周りを取り囲むように住み着く難民キャンプに入ることすらできないロヒンギャたちだった。食料も水も医療も受けられない10万人とも言われるロヒンギャが、はるか先にミャンマー国境が見える地平線まで居並んでいた。
長年、日本の難民政策に取り組んできた遠山は、難民申請期間を制限していた「60日ルール」の撤廃など難民の受け入れ政策を改善させてきた。
その一方で、遠山が「民主党政権の隠れた大失政」と呼ぶ、難民にとっては本末転倒とも言える規制緩和が民主党政権時代に行われた。難民申請さえすれば、6カ月後からフルタイムで働くことを可能にした10年の規制緩和だ。
この結果、ブローカーを通じた「擬似難民」申請者が急増。14年には17人しかいなかったインドネシア国籍の難民申請者が、翌年は969人へと増えた。ネパール国籍の申請者も13年の544人から15年には1768人へと増加している。
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