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ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(後編)

ニューズウィーク日本版 / 2017年9月21日 12時0分

ロヒンギャも民主化のために闘っている。敵は同じ軍政なのになぜ共闘できないのか――。田辺は幾度となく迫ったが、彼らは決まってこう答えた。「ロヒンギャはミャンマー人ではない」

また田辺によれば、ロヒンギャは他のミャンマー人に比べて圧倒的にビジネスがうまい。それ故の嫉妬や妬みも背景にあるのかもしれない。

実はこうしたロヒンギャへのやっかみは、かつてラカイン州でも見られた。軍政下では多くの国民が自由を奪われ、貧しい生活を余儀なくされていた。その中で、商才を発揮したロヒンギャたちが裕福な生活をしているのを、妬みの目で見るミャンマー人は少なくなかった。

商才ある人々が妬みゆえ迫害を受ける――かつてユダヤ人に向けられた憎悪を連想させるロヒンギャが、「ミャンマーのホロコースト」という悲劇の主人公になっているのは、偶然なのだろうか。

ロヒンギャ浄化の「総仕上げ」

移住先である日本でも差別や拒絶を受け続けながら、祖国で苦しむ同胞の救済を国際社会に訴え続けるゾーミントゥットやアブールカラム。彼らの闘いは孤独で、時に絶望的だ。

「このまま行けば、間違いなくロヒンギャはミャンマーという国から消えてしまう」と、アブールカラムは嘆く。彼はその後、カレン軍入隊を断念。タイでの暮らしを経て00年に日本に難民としてやって来た。「ロヒンギャ問題だけを叫ぶと宗教問題に見られるが、問題はそこじゃない」。ミャンマー政府の暴力が続けば、やがてシリアのように国が分裂してしまう。彼の懸念はそこにある。



一方、日本で支援団体ロヒンギャ・アドボカシー・ネットワークを立ち上げたゾーミントゥットは、EU駐日代表部や日本政府への働き掛けを続けている。「外務省への陳情などで東京に行っている間は仕事ができない。売り上げで何万円も損することもある」と、ゾーミントゥットは苦労を語る。それでも、ロヒンギャの惨状を訴える活動をやめることはできない。日本では、国会議員ですらロヒンギャの存在を知らない人が大多数だからだ。

12年、ミャンマーで大規模なロヒンギャ迫害が起こり、多数が虐殺された。その際、祖国に残るゾーミントゥットの父も当局に拘束され、殴る蹴るの暴行を受けた。父は賄賂を払って釈放され、一命を取り留めた。その夜、母から電話があった。

「お前がそうした活動をしているから残された家族がひどい目に遭う。頼むから、もうやめてくれ」。そう話す母から父親が受話器を奪い、ゾーミントゥットを鼓舞した。「絶対に活動をやめるな。俺は死んでも構わない」と。

「数少ない大学進学者のおまえが活動をやめたら、誰がロヒンギャ問題を世界に知らせるのか」。だからやめるわけにはいかない、とゾーミントゥットはスクラップの置かれた敷地を見つめながら話す。

その思いも虚しく、祖国ではロヒンギャ浄化の総仕上げが始まろうとしている。「ミャンマー政府は全土からロヒンギャを追放しようとしている」。今年3月、国連人権理事会でミャンマーの人権問題を担当する李亮喜(イ・ヤンヒ)は、ロヒンギャ迫害を続けるミャンマー政府に警告を発した。EUもこれに呼応し、事実解明のための独立調査を行う決議案を国連人権理事会に提出した。

ミャンマー政府はまだ沈黙を保っている。その裏で、民族浄化は今も続いている。


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前川祐補(本誌編集部)


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