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金王朝支える作家集団 初の「金正恩小説」は対米決戦勝利のシナリオ

ニューズウィーク日本版 / 2017年10月19日 17時5分

注目すべきは「党の厚い信任によって、労働者からある出版報道機関の記者、部長に任命され」たというくだりである。「党」とは金正日総書記を指すと思われる。あえて報道機関名を伏せているのは、恐らく「朝鮮人民軍新聞」など軍関係の公にできないメディアの可能性が高い。軍事機密にも触れられる特別待遇の記者だったとすれば、作家としてもさまざまな情報に接しながら作品を書くことが許されているはずだ。つまり、北朝鮮の最高機密情報を持つ作家と言っていいだろう。



「命脈」が出版されたのは、金正恩時代になってまだまもない13年である。金正恩朝鮮労働党委員長がこの小説を強く意識していることは、彼が15年12月9日に突如、かつて機関短銃を生産した軍需工場跡である平壌の平川革命事績地に足を運び、初の水爆実験をにおわせたからである。

「首領さまがここで鳴らした歴史の銃声があったので今日、わが祖国は国の自主権と民族の尊厳をしっかり守る自衛の核弾、水素弾の巨大な爆音をとどろかせることのできる強大な核保有国になることができた」

そして、この示唆からすぐ、年明け早々に水爆実験を強行したのである。

お抱え作家グループの存在


さて、「不滅の歴史」など最高指導者の業績をたたえる小説を書き続ける金王朝お抱え作家グループ「4・15文学創作団」が、今年創立50周年を迎えた。67年6月に創立された作家集団だが、その直前の5月、秘密裏に開かれた朝鮮労働党中央委員会第4期第15次全員会議で「唯一思想体系」が打ち出されたことと関わっている。金日成を唯一の首領として仰ぎ、その指示に無条件で従うことを決めたのだ。社会主義国が中世の王朝のごとき独裁体制へ転換していく分岐点となったこの会議を影で主導したのが、20代の金正日だったとされる。いかに偉大な指導者であるか、その業績を人民に伝えるため、知られざるエピソードを満載した小説を生みだす「基地」として創作団は結成されたのである。

創作団は金主席が還暦を迎えた72年に抗日革命を扱った長編「1932年」を「不滅の歴史」シリーズの第1弾として刊行、これまでに43作品を出している。また金正日の事績を扱ったシリーズ「不滅の嚮導」が32作品、さらに金主席の夫人・金正淑の事績を扱ったシリーズ「忠誠の一路で」も10作品ある。いずれも力量ある作家の手による長編で、完成までにたっぷり時間をかけているという。

ベールに包まれた創作団の拠点は平壌郊外にある。外部の人間はなかなか近づけない。2万平方メートルもの敷地で、広い庭園に薄緑色の2階建ての棟が三つ並び、中庭もある。執筆や読書のための創作室は30あり、外国文学もそろった資料室、娯楽室、食堂も完備されている。専属医師も配置されている。金総書記は外国の図書はいくら高くても買いそろえてよいとのお墨付きも与えたという。

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