金王朝支える作家集団 初の「金正恩小説」は対米決戦勝利のシナリオ
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月19日 17時5分
その創作団が誕生して半世紀、朝鮮作家同盟機関誌「朝鮮文学」6月号に所属作家5人による座談会が掲載された。タイトルは「太陽の歴史をあやなし50年」。作家らは口々に恩人としての金総書記の思い出を語る。ある作家はこう言う。「作家は座って執筆する時間が多いので、運動不足による疾病が起こります。将軍さまは運動機材を送ってくださり、必要に応じ、外国の休養所で休めるようにまでしてくださいました。人民たちが将軍さまの健康を願ってささげた珍しい補薬や薬剤を、わが創作団の平凡な作家に送ってくださりもしました」
座談会で作家らは、金総書記が小説の初稿からすべて目を通していたという驚くべき事実も明かしている。800ページにもおよぶ長編の「1932年」は、わざわざ遠くの現地指導先から電話で事細かく指示したとも述べている。そして締めくくり、ある作家が力を込めるのである。「敬愛する最高司令官、金正恩同志の先軍革命領導の名作を滝のように出版して持ち上げていかねばならない。その第1騎手になるためもっと奮発しよう」「不世出の先軍霊将である全国千万軍民の慈悲深い父、敬愛する金正恩同志の偉人的風貌を文学作品として深く形象しなければならない栄誉ある、かつ重い課業がわれらの前に立っています」。つまり金正恩の業績を立派な小説にすべきだ、という結論なのである。
実際、平壌では金委員長が登場する小説の出版が相次いでいる。例えば「不滅の嚮導」シリーズでは、ペク・ナムリョンの新刊「野戦列車」がそうである。金総書記の最晩年を金委員長との会話をふんだんに盛り込み、描いている。だが、こうした小説はあくまで主人公が父の金総書記である。金委員長を主人公にした小説も幾つかあるが、いずれも短編で、波瀾(はらん)万丈のストーリー展開も無ければ、手に汗握るスペクタクル感も乏しいのが実情だ。
金正恩小説の登場を予言
ところが、である。くだんのタク・スクボンが最新刊の「君子里の乙女」の編集後記でこう明言しているのだ。
<......私の余生はどれほど残っているでしょう。でも、私は楽観的です。いや、焦っています。私には作家としてする仕事より、やるべき仕事が多いのです。...現在、執筆中の敬愛する元帥さまの不滅の革命活動を描く長編小説に作家の個性をにじませつつ、読者に会いたいと思います>
そう、ずばり、近く初の本格的な「金正恩小説」が誕生するとの予告である。その小説のテーマが、金委員長がこれまで主導してきた水爆や大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの実験であることは想像に難くない。それを金王朝三代にわたる偉業の「完成」として描こうとしているのではないか。タイトルは祖父・金主席の事績をたたえた最初の小説にちなんで「2017年」だろうか。そして、対米決戦で「勝利」したとつづられるのではないか。
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