北朝鮮経済の「心臓」を病んだ金正恩─電力不足で節約に必死か
ニューズウィーク日本版 / 2017年11月8日 11時0分
発電所の建設促す
さて、そもそもなぜ5月3日に金正恩は演説したのか? 当日の動静は不明だが、演説の翌日、平壌から遠い黄海に浮かぶ茂島の防御隊を視察している。2010年に韓国・延坪島を砲撃した精鋭部隊だ。ここで金正恩は事件をこう振り返ったという。「(朝鮮戦争の)停戦以後の最も痛快な戦いだった」
韓国への抜きがたい対抗心、いや、敵がい心がにじむ言葉である。先に紹介した夜の朝鮮半島の衛星写真、これが頭にあるのではないか。スイスに留学した彼は、夜なお明るいヨーロッパの生活を体験している。行ってはなくともソウルも知っているだろう。
5月のこの演説の頃、私はソウルで最終盤の韓国大統領選を取材していた。ソウルも眠ることを知らず、屋台はどこも政治談議の花盛り。市民の「ろうそく集会」で朴槿恵大統領を青瓦台(大統領府)から追い出した高揚感が続いていた。対北朝鮮融和派の文在寅大統領誕生が有力視され、平壌のメディアも連日報じていたが、労働新聞に掲載された写真は集会参加者のアップばかり、たまに遠景写真があっても街並みはぼかされた。明るい夜のソウルを見せたくなかったのではないか。
演説でもきな臭い発言をしている。中小発電所を至るところに建設せよ、と奨励し、こう言うのだ。
<電力生産地と消費地を接近させれば、電力の途中損失を減らすことができるし、戦争の観点から見ても有利な点が多いのです>
「戦争の観点」とは、たとえ空爆などで1カ所の発電所が破壊されても別の発電所で対応できるよう、できるだけ数多くの発電所を確保しておけということだろう。
さらに演説では、太陽光や風力発電など自然エネルギーをもっと活用すべきだとの考えを示しながら、主体的な「核動力工業」を創設し、自らの力と技術による能力の大きな原子力発電所の早期建設を促しているのだ。
<安全性を徹底して担保できるよう建設しなければなりません>
金正恩はそうくぎを刺しているものの、遠くない将来、大規模な原発が完成する可能性があり、核兵器に転用できるプルトニウムが大量に生産されることにもつながる。原発建設の動きが確認されれば、新たな懸念が加わることになりかねない。
金正恩は既存の発電所はおおむね老朽化していることをはっきり認め、こう語る。
<今、発電設備が全般的に老化し、設備補修をちゃんとできないが、電力生産者たちが難しい条件で働いています。彼らには障害と難関が小さくないが、党の構想と意図に従って、必ず経済強国建設の突撃路を開く情熱を抱き、電力増産戦闘に献身奮闘しています。人民経済の心臓である動力基地を守るため、誰が見ていようが見ていまいが、知られようが知られまいが、玉の汗を流している電力生産者は尊敬すべき国家の宝です。
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