トランプの貿易戦争が始まった
ニューズウィーク日本版 / 2018年1月25日 19時40分
米アップジョン雇用研究所のスーザン・ハウスマンは最近の論文でアメリカの製造業はこれまで考えられていた以上にひどい打撃を被っており、その主な原因は(オートメーション化ではなく)他国との貿易競争だった、と指摘している。
貿易不均衡が正せるかどうかはむしろ、アメリカの国内政策にかかっている。技術革新を推進し、インフラに投資し、将来の労働力に対する教育や訓練を充実させることだ。
2017年12月に決まった米法人減税は、アメリカへの新たな投資を促す効果があるだろう。だが貿易ルールも同様に重要だ。アメリカの製造業が国際競争で不利にならないことを重視したという点で、トランプ政権は褒められていい。
トランプ政権がその理論を具体的な成果に変えられるか否かは、これからの数週間にかかっている。NAFTA再交渉に挑むトランプ政権の手法は、今ところ容赦ない。アメリカはカナダとメキシコに対して、自動車などを対象にした原産地規制の見直しや政府調達の開放、加盟国間の紛争解決の仕組みの廃止など、数多くの変更を要求している。カナダやメキシコの生産拠点をアメリカに回帰させる、という意図があるのは明白だ。
最初の一撃としては、これらの要求には相手国に「衝撃と畏怖」を与える効果があった。だが今週は、3カ国すべてが多少なりとも勝利を宣言できる現実的な妥協点を模索しなければならない。トランプ政権にはそういう交渉の準備ができているのだろうか。
対中貿易はどうか。米経済界は、中国に投資するアメリカ企業に対して技術移転を条件に付ける中国の高圧的な態度に苛立ちを強めており、トランプ政権はその強い支持を集めている。だが、トランプ政権がWTOのルールに違反するような対中制裁を発表すれば、その支持もたちまち衰えるはずだ。
元凶はトランプのノスタルジア
トランプ政権は不幸にも、「アメリカを再び偉大にする」というスローガンに込めたトランプのノスタルジアに捕らわれているようだ。アメリカが世界唯一の経済大国で、一方的に他国に対米黒字削減を押し付けることができていた時代はとうに過ぎ去ったというのに。
そのノスタルジアは、USTRが1月19日に発表した年次報告書に驚くほどはっきり表れていた。そこには、「アメリカが中国のWTO加盟を支持したのは誤りだった」とある。「中国の市場開放と市場原理に基づく貿易促進につながらなかった」からだという。
これは歴史の歪曲というものだ。2001年の中国のWTO加盟に至るまでの長くて困難な交渉の経緯を知る人なら、当時のアメリカがいかに強引だったか知っている。それに、中国ほど巨大で経済的に重要な国をWTOの枠組みの外に留まらせておくのは、もはや現実的ではなかったのだ。
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