トランプ、中国に知財制裁──在米中国人留学生の現状から考察
ニューズウィーク日本版 / 2018年3月26日 12時52分
トランプ大統領は知的財産権(知財権)侵害などを理由に、中国に対して高関税の制裁措置を決めた。在米の中国人留学生と中国政府との関係において、どのような形で知的財産権侵害が行われている可能性があるかを考察する。
トランプの言葉を「侵略」と訳した中国の裏事情
日本の報道では、たとえば「3月22日にアメリカのトランプ大統領は、中国による知的財産権の侵害などを理由に通商法301条に基づき、中国からの幅広い輸入品に高い関税を課す制裁措置を発動することを決めた」と表現しているものが多いが、中国は違う。
この「侵害」を「侵略」と統一的に用いて報道している。漢字の国であるだけに、その文字や発音の違いが持つインパクトは大きい。
もともとの英語を見ると"aggression"という単語を用いている。これは「他国への侵略行為」でもあり「権利などに対する侵害」という意味でもあるが、この場合は「侵害」と日本メディア流に訳すのが適切だろう。
アメリカにおける報道では< The White House says Trump will sign a presidential memo "targeting China's economic aggression." >となっている。
侵略と訳しても間違いではないが、敢えて激しく「侵略」という言葉を用いて報道することで統一しているのはなぜか。中国には「侵略」と訳さないと、都合が悪い事情があるからだ。
高関税を課せられる品目の筆頭は鉄鋼やアルミニウム。まさに中国が生産過剰を起こしている業界だ。だからこそ習近平政権は世界を動かして一帯一路巨大経済構想にはけ口を求めようとしているというのに、輸出先を抑えられたのではたまらない。アメリカは今のところ一帯一路構想に加盟していないが、中国にとっては沿線国だけでは生産過剰をさばき切れないので、アメリカに出口をふさがれるのは実に痛いのである。
そうでなくとも粗鉄を製造する地方の工場を次々と閉鎖に追い込みながら、レイオフされた労働者の反乱を抑え込むことに、中国は必死だ。農民や農民工を黙らせることは出来ても、荒くれ男たちが集まっている製鉄所の労働者を黙らせるのは至難の業(わざ)。農民工たちと違い、「工会(ゴンホイ)」という労働組合に相当した組織も持っている。
1940年代の中国革命は毛沢東の強烈な指導力により農民を駆り立て、農民を中心として燃え上がらせていったが、今や、かつてのロシア革命のように、工場労働者が反旗を翻す可能性の方が高い。特に天下を取ってしまった今では、政府転覆を目指す革命を指導するのではなく、全くその逆で、転覆のわずかな兆しでも見つかれば、それを徹底的に叩き潰すのが習近平の役割だ。だから中国では軍事費よりも治安維持費の方が多い。
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