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トランプ、中国に知財制裁──在米中国人留学生の現状から考察

ニューズウィーク日本版 / 2018年3月26日 12時52分

アメリカの大学で博士の学位を取得した者は、そのままアメリカに残って大企業に就職したり、あるいはシリコンバレーなどに行って起業する道を選ぶ。1990年代では、なかなか中国に帰国しない者が多かったが、90年代半ばから中国の(元)人事部(中央行政省庁の一つ)が陣頭指揮を取り、全世界に散らばる中国人博士を中国に呼び戻す巨大なネットワークを創り始めた。

世界を覆う「全球人材信息網(チャイナ・タレンツ・ネットワーク)」

そのダイナミズムと内部事情を筆者は、『中国とシリコンバレーがつながるとき』(日経BP社、2001年)で詳細に描いた。

中国では在学生に関しては教育部が管轄し、大学を卒業した者、特に博士に関しては国家人事部が管轄していた。2008年の国務院構造改革の中で人事部はなくなり「人力資源と社会保障部(人社部)」に改組されたが、ここでは人事部で話をしよう。

1996年、当時の人事部は全世界の中国人博士に呼びかけて「全球人材信息網(中国は英語で「チャイナ・タレンツ・ネットワーク」と表現。直訳はグローバル人材情報網)」を創設し、できるだけ多くの博士が自分が持っている技術を携えて中国で起業するよう「留学人員創業パーク」なるものを中国の各地に設立したのである。特別の優遇策を講じて海外で学んだ技術を中国に持ち帰ることを支援した。

中国人留学生が留学先の大学に在籍している間は、その国の中国大使館(および各地域の領事部)が管轄し、各大学に中国人留学生学友会を設置させ、会長は必ず中国大使館に自分の大学の中国人留学生に関する行動を報告しなければならない。だから中国政府は各国に駐在する中国大使館へのCCメール一本で、全世界の中国人博士の進路先も容易に掌握できるシステムになっている。

こうしてアメリカ西海岸のシリコンバレーと北京は完全なホットラインでつながったのである。もちろんアメリカだけではなく、それはフランスやドイツなど主要先進国を全て網羅している。アメリカ国内でもシリコンバレー以外に他の大企業あるいは有名大学の研究室で研究をしている中国人博士は、各自が知り得た知識・技術を北京に提供するシステムができ上がっているのである。



ここで知的財産権の侵害が起きなかったら、逆に不思議だ。

トランプ大統領は、中国に進出するアメリカ企業に対して技術移転を強要するのは知的財産の侵害にあたると、中国を非難している。しかし中国がいま提携するアメリカ企業に技術移転を強要する以前の問題であり、巨大な素地が早くから全地球を覆っていた。

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