ヘンリー王子の結婚で英王室は変わるのか
ニューズウィーク日本版 / 2018年5月17日 18時0分
しかし弁護士で作家のアフア・ハーシュは、マークルを迎え入れたことで王室が大きく変わるというのは幻想だと考える。「メーガンの王室入りで何世紀にもわたる構造的な不平等が変わるとは思えない」と、ハーシュは言う。「イギリスは、自国にはアメリカのような奴隷制度や人種分離政策、制度化された人種差別はないと自らを欺き、自己満足してきた。しかし植民地では現地の人々を搾取し、有色人種を徹底して差別していた」
その後のイギリスはずいぶん寛容になったが、近年はその反動が来ているようだ。4月に政府が、25年前に白人集団に殺された黒人少年スティーブン・ローレンスの追悼記念日を設けると発表すると、激怒する白人がいた。
最近は排他的な政党や政治家が声高に意見を主張し、幅を利かせている。EU離脱に賛成票を投じた国民全員が人種差別主義者だとは言わないが、投票した差別主義者の全員がEU離脱に賛成したとは言えるだろう。
物騒な動きは収まらない。国家警察署長協議会によれば、あの国民投票後にヘイトクライムは49%も増えている。私が話を聞いた離脱派は、有色人種や東欧出身者が国内にいること自体に怒っていた。ある老人は私にこう言い放った。「国を取り戻したい。あんたはイギリス人と結婚しているが、絶対に私たちの仲間にはなれない。私は人種差別主義者ではないが、あんたみたいなパキはこの国にいらない」
彼らにとって、私たち移民や有色人種は全てを盗む泥棒らしい。仕事、住宅、医療に恋人。今度はヘンリーまで奪ったというわけだ。
オックスフォード大学移民観測所が17年に実施した調査によれば、「イギリス人は出身国で移民を明確に区別している」らしい。「オーストラリア人を移住させるべきではない」と答えた人は10%だったが、「ナイジェリア人を移住させるべきではない」とする人は37%に上った。つまり、移民として最も好ましいのはキリスト教国出身の英語を話す白人。最も好ましくないのは、イスラム教国から来た非白人だ。
ささやかれるマークル孤独説
最近は、私も差別を肌で感じている。つばを吐かれ、侮蔑的な言葉をぶつけられる。殺すと脅迫されて、警察の警護を受けるようになった。EU離脱の手続きには議会の承認が必要だと主張して裁判に勝ったガイアナ出身の女性実業家ジーナ・ミラーも、人種差別主義者に命を狙われている。
マークルも憎悪や差別と無縁ではいられない。11月の婚約発表に対する一部の報道は、目に余るほど差別的だった。タブロイド紙デイリー・メールは「奴隷から王室へ」とツイート。ボリス・ジョンソン外相の妹でジャーナリストのレーチェル・ジョンソンは、マークルは英国王室に「エキゾチックな遺伝子を持ち込む」とメール・オン・サンデー紙に書いた。彼女はマークルの母親を「髪をドレッドにした下層出身のアフリカ系」と評したこともある。
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