人権の女神スーチーは、悪魔になり果てたのか
ニューズウィーク日本版 / 2018年6月12日 15時30分
<ロヒンギャ問題で世界から非難されるミャンマー民主化のシンボル――しかし彼女が置かれた状況と国の歴史を知るべきだ>
アイドルの賞味期限は短いものだが、それにしても・・・・・・。ミャンマー(ビルマ)の国家顧問で事実上の国家元首であり、かつては「ザ・レディ」と呼ばれて親しまれ、敬われたアウンサンスーチーのこのところの人気凋落ぶりはすさまじい。
非暴力で軍事政権に立ち向かい、長年の自宅軟禁にもめげず、1991年にはノーベル平和賞を贈られ、耐えに耐えて民主化を勝ち取った彼女だが、今はイスラム系少数民族ロヒンギャに対する非道な迫害に見て見ぬふりをしていると非難され、袋だたきに遭っている。ノーベル賞を剥奪しろという声まで上がった。
不当な批判だとは言うまい。しかしスーチーは極悪人ではない。彼女は政治家であり、政治の現実を見据えている。ミャンマーの民主主義は生まれたばかりで、まだよちよち歩き。しかも軍部が絶対的な拒否権を握っている。そんな国で、彼女は与えられた権限の範囲で自分のベストを尽くそうとしている。それだけのことだ。
だから彼女は、自分が代表しているはずの多数派勢力(ビルマ族の仏教徒たち)の利益を守ろうとし、そのためなら時には無慈悲に思える決断もし、少数民族の利益を犠牲にもする。遠く離れた安全な国にいて、結果を考慮せず、好き勝手にものを言える立場ではない。彼女はリスクに囲まれ、針のむしろに座らされている。
スーチーを弁護するつもりはない。私は彼女の柔軟性の欠如や政治姿勢を批判したことがあるし、政権与党の国民民主連盟(NLD)を無条件で支持しているわけでもない。しかし今の彼女に対する批判は不当であり、そうした批判をする人たちは彼女が直面している困難な状況を正しく理解していないのだと思う。
一見したところ、スーチー批判には明確な根拠があるように思える。ミャンマー西部ラカイン州のバングラデシュと国境を接する一帯に暮らすロヒンギャは、世界でもまれに見るほどに不運で孤立した人々。その窮状には誰もが胸を痛めている。しかしスーチーは16年から続く組織的な焼き打ちや殺害についてめったに語らず、「ロヒンギャ」という言葉さえ使わない。
16年の秋、ロヒンギャ内部の過激派による散発的なテロ行為を口実に、ミャンマー国軍と仏教徒の一部が残虐な報復攻撃を仕掛け、何十万ものロヒンギャが国境の川を越えてバングラデシュへ逃げ込んだ。この突然の人道危機に対して、国際的な人権擁護団体やNGO(非政府組織)、欧米のメディアなどはこぞって軍部を、そして暗にミャンマー政府を非難し、これは許し難い「民族浄化」だと言い募った。
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