テロリストが旅客機を遠隔ハイジャックする日
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月2日 10時15分
<Wi-Fi経由で衛星通信システムに侵入すれば、飛行中の旅客機をハッキングできる可能性がある>
飛行中の旅客機が地上からハッキングされる――そんな悪夢のようなことが現実に起こり得るのかもしれない。
サイバーセキュリティー企業IOアクティブで主任セキュリティーコンサルタントを務めるルーベン・サンタマータは14年、衛星通信システムのセキュリティー上の欠陥を突けば、航空機や船舶、軍事システム、産業施設などをハッキングすることが理論上可能だと指摘。大きな反響を呼んだ。
それから4年。サンタマータは、Wi-Fi通信網を介して衛星通信システムにアクセスすることで旅客機のハッキングが可能だと実証できたと主張する。詳細は、8月にラスベガスで開催されるサイバーセキュリティー関連のイベント「ブラックハット」で発表する予定だ。
自動車のハッキング実験でも有名なIOアクティブは、セキュリティーの欠陥を見つけた場合は関係企業に通知するよう努めてきたが、サンタマータによれば、ハッカーに利用されかねない「重大な脆弱性」はたくさんあるという。
サンタマータが見つけた問題により人命が脅かされるわけではないが、一部の衛星通信機器の欠陥を利用すればサイバーフィジカル攻撃(現実の世界に打撃を与えるサイバー攻撃)が可能だという。
米政府も危険性を認識
「この世の終わりとまでは言わないが、(攻撃が行われる)シナリオはいくつか考えられる」と、サンタマータはセキュリティー関連ニュースサイトの「ダーク・リーディング」に対して述べている。8月の「ブラックハット」では、衛星通信機器が軍事攻撃に利用されかねないことも示すつもりだという。
最近まで、航空機がハッキングされるというのはほぼ理論上の可能性にすぎないと考えられていた。しかし、昨年11月に航空業界関連サイトの「アビエーション・トゥデイ」が報じたところによれば、米国土安全保障省はそのようなハッキングが現実に行われる可能性を検討し始めている。
きっかけは、同省のサイバー専門家がボーイング757型機の電子機器をハッキングする実験に成功したことだった。
同省科学技術部門で航空プログラム責任者を務めるロバート・ヒッキーは、この実験の多くの部分がまだ機密扱いだとしつつも、遠からずハッキングの方法論を確立できるだろうとの見通しを示している。「誰の手助けも得ず、機外から2日間で(旅客機のシステムへの)侵入に成功した」。具体的には、高周波通信を通じてハッキングを行ったとのことだ。
ボーイング社は、「(ヒッキーの実験で)旅客機の航行制御システムはハッキングされていない」と強調している。しかし、テロリストが機外から航空機をハイジャックできる可能性を明らかにした実験結果は、極めて衝撃的だ。
「今日の世界では地球上を飛び交うデジタルデータが増えるばかりだ」と、サンタマータは14年の報告書で記している。「通信回線を制御する者が強大な力を握ることは間違いない。通信回線を混乱させたり、通信の内容を調べたり、修正したり、通信のルートを変更したりできる者は......通信監視やサイバー攻撃を行うことが可能だ」
サンタマータは、報告書の中でこうも述べている。「ことセキュリティーに関しては、安全だろう、と感覚に頼ることはもう許されない」
<本誌2018年7月3日号掲載>
ジェーソン・マードック
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