モーリー・ロバートソン解説:「9条教」日本の袋小路
ニューズウィーク日本版 / 2018年8月8日 17時10分
消極的な気持ちで自民党候補者に投票する人と似ていて、「自民党は腐敗しているし右翼志向でジェンダーに関する議員の言動も最悪だが立憲民主党とか共産党に任せるよりはまし」という人たちですね。ロン・ヤス時代のハネムーン的な日米関係はなくなるので、今後は4年ごとにちゃんとアメリカとの付き合い方を変えていかなきゃ、という感じになりそうです。アメリカは機能不全に陥りがちなので、付き合い方を政権ごとに再検討するということでしょうか。「新たなリアリズム」というほど高尚な話ではないかもしれませんが、そうした、どこかドライな同盟関係に変わっていきそうですね。
ただ、当面はそうした関係でお茶を濁せても、日米関係の先行きを突き詰めて考えるとやはり改憲と徴兵制になってしまいます。ところが日本には「9条がある」という、さながら「9条バリア」が張られてしまっている。
対米不信が募れば日本は「非積極的アメリカ支持」になるかもしれない(沖縄県・米軍普天間飛行場) ISSEI KATO-REUTERS
「9条バリア」がもたらすもの
話は飛びますが、イスラエルにはパレスチナの武装勢力ハマスなどが撃ち込んできたロケットをすぐに撃ち落とすことができる「アイアンドーム」と呼ばれる防空ミサイルシステムがあります。そのおかげで攻撃されにくいという、抑止力の1つです。さしずめ、日本人の多くは憲法9条がそのシールドであって、想像上のアイアンドームに守られていると思っているわけでしょう。だから、自分たちが撃たない限り相手も撃ってこないと信じている。
ただ、「9条ドーム」のバリアを北朝鮮のミサイルなどが打ち破って日本に着弾したら? 突然、現実が目の前に来ちゃうわけですけれど、日本人はそのことをどこまで現実的に考えているのでしょうか?
いわば「9条教」ともいえる宗教を信じてきた日本人は、トランプ政権を支える「トランプ教徒」たちをあざ笑うことはできない。もちろん、両者を比較したら9条を信じている日本人のほうがはるかに教養レベルが高いですが。だけど、同じくらい現実に向き合えないという点では共通しているんです。つまり、どちらもアンチ・リアリズム。現実を突き付けられることがあまりに苦痛を伴うため、自分の思考回路がよって立つところを失ってパニックになって過呼吸になる。そんなところは似ていると思います。
そういう「9条スピリット」の人々は日朝関係にも影を落とす可能性が大いにあります。北朝鮮情勢が緊迫した昨年や、その後に韓国が音頭を取って進めた米朝首脳会談に至るまでの過程で日本が何も関与できていないと嘆く人が結構いました。日本が置き去りにされているという、いわゆる「蚊帳の外」論です。でも結論から言えば、日本にできることなど別に何もなかった。「9条」に縛られて日本が攻撃力を持たない以上、これは宿命だと思います。
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