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モーリー・ロバートソン解説:「9条教」日本の袋小路

ニューズウィーク日本版 / 2018年8月8日 17時10分

あまりこういう主張をして右派勢力みたいに思われたくないけれど、合理的に考えると独自の攻撃能力を持たない国が、戦争や軍事力でしか話をつけられない北朝鮮や中国を相手にハト派外交や経済外交だけで話をつけようと考えるのは無理な話。それを肩代わりするのが集団的自衛権であり、アメリカとの同盟関係なのであって、だからこそ中朝も、対日外交では背後にいるアメリカと交渉しているつもりだった。

ハト派外交や経済外交が効かないとなれば、日本は北朝鮮に対して経済制裁をはじめ最大限の圧力をかけ続けるしかない。ですが、別のシナリオとして考えられるのは、北朝鮮がにわかに友好ムードを演出するということです。例えば、1人か2人の拉致被害者を日本に帰すことなどが考えられます。もともと日朝双方には、まず国交正常化してから拉致問題を解決させるという考え方が意外と根強くありますから。

ただ、そのように「9条スピリット」の人々が喜ぶことを北朝鮮が行うと、日本が大損する恐れがある。



例えば、仮に横田めぐみさんが帰ってくるというようなことがあったら、「これで日朝関係が大いに進展した。対話こそが大事なのだ」と宣言する人が出てくると思う。でもそれは、ドナルド・トランプ大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長と会っただけで北の核問題が解決したと言い切るのと同じくらい危ういことなのですが、リベラル系のメディアがそれに飛び付いて友好ムードを醸成してしまうと、北朝鮮は少ししか譲歩していないのに日本が大幅に譲ってしまう恐れがある。非核化の名目で大金を渡して北のエリート層がいくらかピンハネして終わるというような、うっかり外交に陥るリスクがある。

もっと言うと、「9条・護憲」の人々の心の奥底には、「そうした『賠償金』の支払いは日本が犯した歴史的大罪に対する贖罪だし、拉致被害者にこだわるよりも日本の歴史を見直して今後の北朝鮮を盛り上げましょう」という考えがある。もちろんそれを表立っては言わないだろうけれど、本音では「日朝間の問題くらいで9条の立場を危うくするんじゃない」という考えがあると思います。「9条スピリット」の人には、在日米軍と自衛隊を合わせた軍事力がすごく高いことに安心しているという、どこか矛盾した感覚を覚えないでもない。在日米軍の恩恵を受けていながら米軍帰れと言う妙なバランス感覚は、意識的に調整しなければあり得ないことです。

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