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『新潮45』休刊の背景──貧すれば鈍する名門雑誌の最期

ニューズウィーク日本版 / 2018年9月28日 16時0分

この中途半端な『二重構造』を持つ類似雑誌として、私が真っ先に念頭にあげるのはPHP研究所から出版されている月刊論壇誌『VOICE』である。こちらも前半は過激なネット右翼迎合の政権支持、嫌韓・嫌中、反メディアで構成されながら、後半は穏健な執筆陣による二重構造を持つ典型的な「後発右傾雑誌」である。

『VOICE』は1977年創刊。母体企業であるパナソニックの松下幸之助の意向を受け、穏健論壇誌としてスタートした。一方『新潮45』の創刊は1982年創刊。双方とも40年近くの歴史を持ち、高邁な理想からスタートした品格と気品ある雑誌であり、発行母体が大手出版社、と言う意味でも酷似している。では『新潮45』と『VOICE』の発行部数も比較してみよう。



『VOICE』にも敗北



10年前つまり2008年、『新潮45』は、『VOICE』に対して約1万部の比較優位を保っていた。しかし2013年を境に僅かばかり『VOICE』に逆転された。『VOICE』も同じく「後発右傾雑誌」として、どんどん過激な反中・嫌韓・反マスメディア(産経新聞を除く)を展開していったが、『新潮45』に比べればまだしも健闘している。

結果、最新統計(2018年4~6月)では、『新潮45』が16,800、『VOICE』が約18,000と大差は無いのだが、ここ10年の減少率を観ると『新潮45』が1/3になったのに対して、『VOICE』は辛うじて半分の勢力を維持している。巨視的に観ればどんぐりの背比べかもしれないが、固有の戦力が半分程度残っている意義は大きい。『新潮45』は、10年前に優位に立っていた『VOICE』にも敗北を重ね、ますます焦燥感を募らせていったことは想像に難くない。

他人事では無い『新潮45』休刊

一向に回復しない部数。減り続ける実売。これが今回の『新潮45』の炎上商法とも言うべき暴挙の直接の主因のひとつであることは間違いないだろう。どんなことをしてでも一部でも多く売りたい、となれば、これはもう手段を選んでいる場合では無い。肉弾戦法でも何でも良いから、兎に角、生還を前提としない誌面構成にである。しかし繰り返すように『二重構造』が故、全面的な右傾雑誌には改造できない。これが『新潮45』の宿命であったのかもしれない。



雑誌不況、と言われて久しい。今回の『新潮45』の休刊を、単に「生きるか、死ぬか」の切迫した状況で生まれた悲劇、と断じてしまっていいのだろうか。これは苦戦する雑誌媒体のみならず、断末魔へと向かう他業種の業界全体の業界人にも、我が事としてとらえなければならない問題と言える。正に己が死に向かうそのとき、それまで営々と先人が気づきあげてきたポリシーや崇高な理念をかなぐり捨ててでも、「売り上げ」を優先してしまうという心境が、『新潮45』だけに固有のものであったとは、誰が言い切れるのだろうか。

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