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合意なきEU離脱はイギリスの経済的な自殺行為

ニューズウィーク日本版 / 2018年10月16日 16時30分

あらゆる業界を直撃する

またイギリスの航空会社はEU域内への乗り入れができなくなる。英〜EU間の路線は別途交渉するとしても、イギリスは「欧州単一空域」を外れるため、EU域内の都市を結ぶ路線からの撤退を余儀なくされる。現在パリ〜ローマ、アムステルダム〜リスボンなどの多くの路線を持つイージージェットなどは損失を被りそうだ。

サービス部門も大打撃を受けるだろう。イギリスの金融機関は、EU全域での営業を可能にしている「単一パスポート」の権利を奪われるだろう。既存契約の法的扱いがどうなるかも分からない。それが金融、デリバティブ(金融派生商品)の清算や決済に影響を及ぼす。これらの扱いは、EU内ではロンドンに特に集中している。



ジョンソン前外相(中央)らの強硬派は合意なき離脱を辞さない構えだ Dan Kitwood/GETTY IMAGES

イングランド銀行(英中央銀行)によれば、合意なき離脱で影響を受けそうなデリバティブ取引は約38兆ドルに上る。その中には、ユーロ建て金利スワップの約90%が含まれているという。

経済的混乱でイギリス通貨ポンドは対ユーロで急落する。対ドルでも40年来の安値となり、インフレや国民の生活水準の低下を招くだろう。

そうなれば、イングランド銀行は通貨防衛とインフレ抑制のために利上げをするか、景気を刺激するために低金利を維持するかの選択を迫られる。ポンド安による急激なインフレは一時的とみて後者を選ぶかもしれないが、難しい選択だ。

不動産市場にも打撃となる。特に大幅な利上げが行われた場合の影響は大きい。利上げが回避され、資金調達コストが上昇しなかったとしても、先行き不透明感からイギリスの不動産は敬遠され、不動産価格はおそらく下落するだろう。

合意なき離脱はイギリス経済に大打撃を与える。それは間違いない。問題は景気減速の程度と回復の時期だが、早期の回復は難しいと思われる。

化学製品や医薬品などの取り扱いについては合意に至るだろうが、それでも関税は重荷になる。ホンダは部品にかかる輸入関税がイギリスで最終組み立てを行う自動車の製造原価を10%ほど押し上げると予想している。しかも、EUへ輸出すればEU側で関税がかかる。

EUからの輸入品に対する関税をゼロにすればいい、という議論もある。だがWTO(世界貿易機関)のルールに従えば、国や地域によって関税率に差をつけることは許されない。つまり、仮にイギリスがEU域内からの輸入品に対する関税をゼロにすれば、その他の国からの輸入品についても関税をゼロにしなければならない。一方でイギリスの輸出品に対する関税は残るから、イギリスの競争力が損なわれる。そんな「片務的自由貿易」は受け入れ難い。

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