合意なきEU離脱はイギリスの経済的な自殺行為
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月16日 16時30分
例外はアイルランドだ。同国の経済はイギリスと密接に結び付いている。EU加盟国からの輸入品も、多くはイギリス経由で入ってくる。また合意なき離脱となれば、英領北アイルランドとの国境の管理が厳しくなる。北アイルランド紛争が再燃する恐れもある。
EUが最も打撃を受けそうなのは金融分野だ。合意なき離脱が現実になればヨーロッパの資本市場は寸断され、域内企業にとってはロンドン市場へのアクセスが困難になる。とりわけ先物やデリバティブの取引にロンドンは欠かせない。
また合意なき離脱の場合、EUとイギリスの関係が悪化するのは避けられない。イギリスは欧州防衛に関与する意欲を失うかもしれない。最も親米的な国イギリスが去ったヨーロッパの防衛に、アメリカが今までどおり本気で関与する保証もない。
合意なき離脱はEU内のパワーバランスも崩すだろう。ドイツの支配的な地位が一段と強まるのは必至であり、結果として域内でドイツに対する反発が強まる。せめて合意の上の離脱であれば、今後もイギリスが安全保障などの面で一定の影響力を行使できるが、合意なしではそれもあり得ない。
この崖っぷちから、引き返す時間はまだある。しかし引き返さなければ厳しい現実が待っている。合意なきEU離脱に勝者はいない。いるとしてもロシアくらいだ。
<本誌2018年10月16日号掲載>
[2018.10.16号掲載]
サイモン・ティルフォード (トニー・ブレア研究所チーフエコノミスト)
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