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合意なきEU離脱はイギリスの経済的な自殺行為

ニューズウィーク日本版 / 2018年10月16日 16時30分

そうなるとイギリスは(EUとの間で期限内に合意できなかった)自由貿易協定を世界中の国々と個別に結ばねばならない。ただし、そうした自由貿易協定にはサービス貿易が含まれない可能性が高い。だがイギリスの輸出額のおよそ半分はサービスであり、EU市場から締め出されれば手痛い打撃を受ける。

一方、国民の生活に最も大きな打撃を与えるのは投資の減少だ。投資協定がなければ、諸外国の企業はイギリスへの投資意欲を失うだろう。自動車やロボットなど、外国製の部品を大量に必要とする産業では特にそうだ。通貨安で人件費が相対的に下がっても、輸入時に生じるコストは相殺できない。製造コストに占める人件費の割合は下がり続けているからだ。

またインフレが進めば消費は鈍るから、企業は投資を控えるだろう。結果として生産性の向上は期待できず、従って労働者の賃金も上がらない。

合意なしの離脱は、イギリスに住むEU市民300万人の法的地位にも不確実性をもたらす。移動の自由がなくなれば大陸から働きに来る人が激減し、人手不足で経済成長が鈍る。



離脱の夢は破れる定め

EU離脱の支持派は、イギリス政界の右派にも左派にもいる。ただし支持する理由は、まるで異なる。

右派に言わせると、企業活動を縛るEUの各種規制から解放されればイギリス経済は活力を取り戻す。だがOECD(経済協力開発機構)によると、イギリスは今でも物品やサービス、労働に関する規制が最も少ない国の1つだ。それに、休暇の取得に関するEUの規定は廃止できても、今さら労働者から休暇の権利を奪うことはできない。休日を減らせば生産性が上がるという証拠もない。

一方、左派に言わせるとEUは新自由主義者の集まりで、労働者を犠牲にして資本家に奉仕する組織であり、社会民主主義的な富の再分配に反対している。しかし富の再分配というなら、EUの中核を成すドイツのほうがイギリスよりも進んでいる。公共部門の雇用も、イギリスよりフランスやスウェーデンのほうがずっと多い。

EUを離脱すれば国内の造船業界などに補助金を出し、イギリスの製造業を復活させられるという主張もある。しかし部品の輸入が高くつく状況で英国内に製造業の雇用が戻るとは思えない。サプライチェーンが寸断されれば、英国内の製造業はさらに縮小するだろう。

合意なき離脱はEUにとっても痛手だろうか。短期的な混乱を別とすれば、影響は軽微だろう。個々の加盟国の対英貿易額は全体の約8%前後だ(イギリスは対EU貿易が44%)。今までイギリスから輸入していた品物を、別のEU加盟国から調達することは難しくない。

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