1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

剛腕ゴーンが落ちた「コンプライアンス・クーデター」の闇

ニューズウィーク日本版 / 2018年11月29日 16時40分

要するにゴーンにコンプライアンス違反があったということだが、これが日産に対する背任容疑にまで広がるかどうかは定かではない。まず海外不動産物件の購入だが、会社役員用の社宅や福利厚生のために法人が不動産を購入することは珍しいことではない。ゴーンとその家族が独占的に使用していたという実態があったとしても、不動産価額が減少していなければ、投資判断として適切だったと言える可能性がある。

仮に損害が発生していたとしても、オランダ、バージン諸島、レバノンの関連会社を通じて複雑に作り上げられた不動産購入スキームに、特別背任罪などを適用できるかは微妙だ。実姉のアドバイザー契約も、ゴーンに電話や口頭で助言を与えていたなど、勤務実態があったと抗弁する可能性がある。今回の逮捕容疑が、客観的に明らかな有価証券報告書の虚偽記載だけになったのは、そうした事情が考慮されたからだろう。



記者会見で日産の西川はゴーンの「罪」を明らかにしたが Issei Kato-REUTERS

しかし、有価証券報告書の記載は一般に公開されていた既知の事実だ。なぜこのタイミングで問題になったのか釈然としない。ゴーンが「個人情報だからSARは記載しないように」などと高圧的に指示した事情があったとしても、財務情報の開示は上場企業の法人としての義務であり、日産は会社として8年も虚偽記載を放置していたことになる。「アメリカなら証券詐欺に当たる重罪だ」と戒めることもなく会社として黙認してきたとすれば、当時の取締役の善管注意義務違反も問われかねない。にもかかわらず、なぜ日産はゴーンの不正を告発したのか。

密約が引き金になった?

事件の背景にあるのが、仏ルノーと日産の経営統合戦略だ。

日産株を43・4%保有しているルノーの稼ぎの約半分は日産がたたき出している。ルノーの筆頭株主である仏政府は近年、アライアンスの維持だけでは飽き足りず、「不可逆的な連携」として、ルノーによる日産の統合を推進させる圧力を強めてきていた。財政再建策として国有企業株の売却を推し進めているフランス政府は、影響力の希釈化を防ぐべく14年に株式を2年以上保有している株主の議決権を2倍にするフロランジュ法を成立させており、ルノーでの発言力も倍増している。

今年6月のルノー株主総会でゴーンが会長に再任されるに当たり、それまでアライアンスの現状維持路線を取っていたゴーンとエマニュエル・マクロン仏大統領との間で「日産の経営統合を行う」という密約が交わされたとの噂も流れた。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください