剛腕ゴーンが落ちた「コンプライアンス・クーデター」の闇
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月29日 16時40分
危機感を抱いたのは日産である。99年の資本提携で経営危機から救済してくれた恩があるとはいえ、現在の経営状況の実力からするとルノーに統合されるのは容認し難い。アライアンスの守護神であったはずのゴーン会長が統合へ舵を切る姿勢を見せたことが呼び水となって「ゴーン追放」の機運が高まった可能性がある。
ゴーンを告発する「内部通報」が半年前にもたらされたのが単なる偶然か、それともこのような機運の中での戦略的な動きだったかは不明だ。
司法取引が生んだ造反劇
いずれにせよ今回の事件は、コンプライアンス違反を糾弾することで経営トップの追放に成功したという意味で、コンプライアンスを錦の御旗に掲げた「クーデター」の一種だったと言える。日産側からすれば組織を防衛するための「義挙」かもしれないが、司法捜査当局を巻き込んで組織トップを追放したに等しいのであればクーデターのそしりは免れない。
今回のコンプライアンス・クーデターを可能にしたのが、18年6月から施行された日本版司法取引である。これまでは、内部告発を行えるだけの十分な情報を持っている社員は、自身が違反行為に関与していることが多く、その場合、自分も摘発されてしまうことを恐れて告発を躊躇せざるを得なかった。しかし司法取引の導入によって、他人の刑事事件で捜査に協力すれば刑事処分の減免を受けることが制度的に担保されたのだ。
コンプライアンスを大義に掲げた腐敗の糾弾は、法令遵守という、いわば最強の錦の御旗を掲げるものであるが故に、しばしば権力闘争における権力維持あるいは奪取の手段として用いられる。例えば、中国の習近平(シー・チンピン)政権による権力確立過程で多くの政敵が腐敗を理由に摘発され、失脚した。
ベトナムやサウジアラビアでも同様に、腐敗撲滅が大義に掲げられて有力者が失脚している。これらは権力を奪取するクーデターというよりも、既に権力を有している側による政敵の排除だ。正確には綱紀粛正と言うべきだが、歴史的には腐敗糾弾を掲げて政権を崩壊させる本来の意味でのクーデターも多くある。
企業もそうした動きに無縁ではない。15年6月、孫正義社長の後継者として鳴り物入りでソフトバンク代表取締役副社長に就任したニケシュ・アローラがわずか1年で「任期満了」に伴い退任したのは、ソフトバンクとの利益相反に当たる投資取引を行っているのではないかという匿名の告発をきっかけとした特別調査の直後だった。
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