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韓国の埋もれた歴史「在日同胞留学生スパイ事件」が、いま掘り起こされる

ニューズウィーク日本版 / 2019年1月16日 17時0分

捕らえられた彼らに対し、韓国社会は冷淡だった。メディアは情報機関から次々と発表される内容をそのまま繰り返すにとどまり、現地での公判過程を取材した日本人記者の記録によると、裁判所で韓国メディアの姿を見ることはなかったそうだ。

彼らは獄中でも韓国の「民主人士」と切り離され、孤立していた。事件について本格的に聞き取り、まとめた書籍が韓国内で出版されたのは、これが初だという。

長らく振り返ることすらされてこなかったが、盧武鉉政権(2003~2008年)時に始まった独裁政権下の真相究明作業により再審が決定し、死刑判決や無期懲役を受けた者は2010年以降、続々と無罪を勝ち取っている。

しかし今も精神的・肉体的な傷を抱えている者は多い。無罪判決を受けた李宗樹さんも、両耳の聴力がひどく低下したそうだ。

歴史に「たら・れば」は禁物だが、もし彼らが無事に留学を終えていたら、日韓双方を肌で知る架け橋として、両国の関係改善に寄与したのではないか。それを思うと、国家が奪ったもののあまりの大きさに身がすくむ思いだ。



とはいえ、全くの救いがないわけではない。同書では全面にわたって家族や元学友、在日同胞、労働運動関係者やキリスト教関係者など、日本国内の幅広い人たちが救済に立ち上がったことに触れている。祖国により棄てられた人々は、広義な意味での「友人」に救われていたのだ。

同書は国家が犯した捏造事件を通して、何を信じ、何を支えに生きるべきなのかを教えてくれる。そして被害者たちが真に救われない限り、韓国の積弊が清算されることはないことも同時に教えてくれる。李宗樹さんを拷問した元捜査官は2018年に有罪となったが、主犯は元捜査官ではない。韓国という国そのものなのだから。


『祖国が棄てた人びと――在日韓国人留学生スパイ事件の記録』』
 金孝淳 著
 石坂浩一 訳
 明石出版




碓氷連太郎


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