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中国の「監視社会化」を考える(4)──市民社会とテクノロジー

ニューズウィーク日本版 / 2019年2月1日 16時0分

また、2018年5月から「個人情報安全規範」も施行され、企業が個人データを扱う場合の規則には一層の制限がかけられることになりました。一般消費者のプライバシー意識の高まりが、個人情報保護の名を借りた政府による民間企業の活動制限につながるのではないか、という指摘もあります(山谷、2018)。つまり、そこにあるのは民間企業による個人情報の取得やそれを用いたアルゴリズムの提供を国家が規制する、という姿勢であり、GDPRのような政府が提供するアーキテクチャも含めた統治システムを市民が監視する、という発想は基本的にありません。



このように、情報技術の進展を背景とした個人情報の保護をめぐる法規制のあり方には、欧州と中国との間に鮮やかな対比がみられます。すなわち、市民的公共性の伝統を持つ前者で制定されたGDPRでは市民自らが定めた「ルールとしての法」によって個人の尊厳を脅かすものを縛ろう、という発想が濃厚です。それに対し、儒教的な「天理」を通じた公共性の実現、あるいは有徳な権威者によって導かれる「公論としての法」の伝統を持つ後者では、個人情報をめぐる法規制もあくまで「民意(=天の意思)」を代弁した共産党政権が市民の代わりに民間IT企業の暴走を止める、という姿勢が前面に出ているように思います。

(続く)


参考文献

石塚迅(2012)「政治的権利論からみた陳情」(毛里和子・松戸庸子編(2012)『陳情:中国社会の底辺から』東方書店)
ティロール、ジャン(2018)『良き社会のための経済学』村井章子訳、日本経済新聞出版社
徳山豪(2018)「アルゴリズムが社会を動かす」"α-Synodos" vol.256(2018/11/15)
ハラリ、ユヴァル(2018)『ホモ・デウス(上、下)』柴田裕之訳、河出書房新社
堀内進之介(2019)「情報技術と規律権力の交差点―中国の「社会信用システム」を紐解く」『SYNODOS』2019年1月1日(https://synodos.jp/international/22353/2)
毛里和子・松戸庸子編(2012)『陳情:中国社会の底辺から』東方書店
山本龍彦(2018)「AIと個人の尊重、プライバシー」(山本龍彦編『AIと憲法』日本経済新聞出版社)
山谷剛史(2018)「中国の個人情報保護の動きと行き過ぎへの不安」『ZDNet JAPAN』2018年12月12日、(https://japan.zdnet.com/article/35129999/?fbclid=IwAR1Ek-g7a4pUJH_p4_CdFtHm_Tbo9wjNuXQT-SImhuGt1PPJXgckfvNHwOM、2019年1月30日アクセス)
Creemers, Rogier(2018), China's Social Credit System: An Evolving Practice of Control: An Evolving Practice of Control, SSRN Electronic Journal.

[執筆者]梶谷懐
神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国経済論。1970年大阪府出身。神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。最新刊の『中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで』(中公新書)、『日本と中国経済』、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』ほか、著書多数
ウェブサイト:http://www2.kobe-u.ac.jp/~kaikaji/
ブログ「梶ピエールの備忘録。」http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/


梶谷懐(神戸大学大学院経済学研究科教授=中国経済論)


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