アポロ11号アームストロング船長の知られざる偉業
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月26日 17時30分
ホッジは管制官たちと選択肢を検討し、20分後に決断を下した。再突入は7回目の周回で行う。あと3時間もない。想定どおりに逆噴射を行えれば、ジェミニは日本の南東約1000キロに着水する。その地点を目指し、海軍の駆逐艦レオナルド・F・メーソンが全速力で航行を始めた。
アフリカ上空を飛びながら、アームストロングは不安と闘っていた。もしも地面に激突したら? 機体は激突に耐えるように設計されている。だがいくら操縦席の耐衝撃性が優れていようと、すさまじい衝撃を受けるのは間違いない。障害物も避けようがない。大気圏に突入し、目前に迫るヒマラヤ山脈を見ると、スコットも不安を募らせた。しかし機体が急降下を続け、パラシュートが開き、眼下に青い海が見えたとき、2人は胸をなで下ろした。
着水してから20分後、空軍の輸送機から飛び降りた潜水要員3人がジェミニを確保。3時間後には駆逐艦がウインチで艦上に引き揚げた。10時間41分の飛行で乗組員は疲弊していたが、健康に問題はなかった。
あの2人、パニックを起こしたらしいぜ。そんな噂を流す者もいたが、ベテランの宇宙飛行士なら知っていた。アームストロングとスコットは手引書に従って行動し、生き残るために必要なことをやってのけたのだ。しかも見事に。極限状態を冷静に乗り切った2人をNASAはたたえた。とりわけ船長のアームストロングには脱帽した。
このフライトで周知の事実が再確認された。ニール・アームストロングはどんな危機に遭遇しても動じない冷静な男だということ、である。
(c) 2019 by James Donovan. Reprinted with permission of Little, Brown and Company. All rights reserved.
<本誌2019年4月2日号掲載>
※4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が尊敬する日本人100人」特集。お笑い芸人からノーベル賞学者まで、誰もが知るスターから知られざる「その道の達人」まで――。文化と言葉の壁を越えて輝く天才・異才・奇才100人を取り上げる特集を、10年ぶりに組みました。渡辺直美、梅原大吾、伊藤比呂美、川島良彰、若宮正子、イチロー、蒼井そら、石上純也、野沢雅子、藤田嗣治......。いま注目すべき100人を選んでいます。
69年7月20日、アームストロングは月面に降り立ち着陸船を写真に収めた NASA
ジェームズ・ドノバン(作家)
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