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団地は最前線、団地こそが移民の受け皿として機能する?

ニューズウィーク日本版 / 2019年5月27日 18時0分

 芝園団地が一部メディアの注目を集めるようになったのは二〇〇九年ごろだった。中国人住民の急増が話題となり、風紀の乱れや治安の悪化を憂う記事が相次いで掲載された。「チャイナ団地」「中国人の脅威」ーーいずれも身勝手にふるまう中国人と肩身の狭い思いをする日本人といった文脈でまとめられたものだった。 こうした記事を目にするたびに気持ちがザラついた。外国人が増えることを「治安問題」とする日本社会の空気にうんざりした。排他と偏見を煽るような雰囲気が怖かった。(76ページより)



当時から外国人排斥を主張する差別者集団を追いかけてきたという著者によれば、芝園団地の最寄り駅である蕨(わらび)から西川口にかけての一帯は、差別デモの開催地としても知られ、排外運動に飛躍を促した場所でもあったのだそうだ。

やがて蕨や川口市を舞台とした差別デモは定例化し、デモの際に日章旗や旭日旗だけでなく、ナチスのシンボルであるハーケンクロイツを掲げる者まで現れた。そんな空気が流れるなか、中国人住民が急増した芝園団地が差別主義者の攻撃対象となるのは当然だった。

著者が実際に芝園団地へ足を運んでみると、確かにそこには「中国」があふれていたそうだ。中国語が併記された看板や張り紙、日本語がほとんど通じない団地商店街の中国雑貨店、中華料理店など。子を叱る母親の声も井戸端会議も、圧倒的に多いのは中国語。

そんななか、公園で談笑していた中国人の母親グループに著者が声をかけると、「ここには友だちもたくさんいる。とても住みやすいです」と弾んだ声が返ってきたという。

実は私の住む家の近所にも中国人が多く住むマンションがあるので、その雰囲気は想像できる。親が子を叱る声などは昭和の日本のようで、個人的には懐かしさとともに好感を持っていた。おそらく芝園団地にも、そういう穏やかな空気が流れていたのだろう。

 一方、団地内を歩いていると、掲示板に次のように記された張り紙があった。 〈警告 不良支那人・第三国人 偽装入居者(不法)  強制送還される前に退去せよ〉 太字の黒マジックで殴り書きされたような張り紙の文字からは、憎悪と差別の"勢い"が見て取れた。いかにも団地の管理事務所が貼り出した「警告」のように見えるが、実際は何者かによるイタズラである。(82〜83ページより)

ちなみに中国人住民の多くは日本の大学を出て、そのまま日本企業に就職した会社員とその家族なのだという。芝園団地は都心に近く、家賃に比して間取りも悪くない。なによりUR団地は収入基準さえ満たしていれば国籍に関係なく入居できる。

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