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団地は最前線、団地こそが移民の受け皿として機能する?

ニューズウィーク日本版 / 2019年5月27日 18時0分

――それから? 答えを急かすような私に対し、藤田はちょっと困ったような顔つきでこう答えた。「ごみステーションが汚れていると、日本人はすぐにブラジル人のせいにするでしょ? ブラジル人が汚していなくてもブラジル人のせいにされる。だからどんなときでもきれいにしておかないと」 藤田が口にする「日本人」という言葉の響きには、戸惑いや恐れが含まれているような気がした。 藤田自身が日系二世である。ブラジル生まれとはいえ、父親は岡山県出身、母親は大阪府出身の「日本人」だ。それでも藤田にとって「日本人」は、ちょっと違う地平に立つ人々なのだ。(211ページより)

2018年末に、在留資格を新設する入館法改正案が臨時国会で成立した。人手不足業種の現場はこれまで技能実習生や留学生によってまかなわれてきたが、それだけでは足りないため新たに「特定技能」という在留資格を設け、最長10年間、単純労働分野における外国人の雇用が可能になったのである(技能実習生は最長5年)。今後5年間で約35万人におよぶ外国人労働者の受け入れが見込まれるという。

政府は決して「移民」ということばを使わないが、外形上は移民受け入れに舵を切ったわけである。政府の思惑がなんであれ、少子化と急激な高齢化が進行する以上、現実問題として移民は増え続けることになる。

その際、文字どおりの受け皿として機能するのが団地だと著者は主張する。団地という存在こそが、移民のゲートウェイになると。そして、そこに団地の高齢化問題を解決するひとつの解答が示されているというのだ。



 外国籍住民の人口は、いまや二五〇万人に迫る。これは名古屋市の人口を上回り、もはや京都府全体の人口に近い。 たそがれていた団地にとって、この存在は救世主となる可能性もある。 いつの時代であっても、地域に変化をもたらすのは"よそ者"と"若者"だ。 限界集落に新しい住民が増えることで、新しい時間が訪れる。風景も変わる。人々の意識も変わっていく。衝突や軋轢を繰り返しながら、しかし、徐々に人々が結びつきを深めていく。(251〜252ページより)

そういう意味において、団地は多文化共生の最前線だというのである、それは、移民国家に向けた壮大な社会実験の場でもあると著者は表現している。限界集落化した団地を救うのは、外国人の存在かもしれないということ。

感情的に排斥するだけでは、何も変わらないのだ。


『団地と移民――課題最先端「空間」の闘い』
 安田浩一 著
 KADOKAWA


[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。




印南敦史(作家、書評家)


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