団地は最前線、団地こそが移民の受け皿として機能する?
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月27日 18時0分
一方、民間の賃貸住宅は外国人に対しての審査が厳しく、露骨に差別的な対応をされることもあるため、都心の企業に通勤するホワイトカラーを中心に、"芝園人気"が定着しているというわけだ。
つまり芝園団地は、増え続ける中国人住民にとっては「心強い」環境だということ。しかし、一部の日本人住民が中国人住民を快く思っていないことも事実だ。特に外国人との交流に慣れていない高齢者の中には、不安を隠せない人も存在するということである。
また、日本人住民の中に「メディアや右翼が騒ぐほどの問題はない」と言い切る人も少なくなかったと著者は記している。
別の七〇代住民は次のように話した。「この団地には広い中庭があるので、昔から近隣の悪ガキたちのたまり場になっているんです。そうした者たちのイタズラを、中国人の仕業だと喧伝する住民がいるんです。少し前のことですが、夏祭りの前夜に、盆踊りの舞台に飾られた提灯が壊されるという事件が起きました。目撃者もいたことで、"犯人"は団地の外に住む日本人の中学生グループだということはわかったのですが、それでも、中国人がやったに違いないというウワサが、あっという間に広がりました」 また、団地内にある芝園公民館の職員も「誤解に基づいた偏見が多い」と嘆いた。「たとえば大小便の問題も、調べてみたら犬の糞だった、ということもありました。ごみ出しなどで、生活習慣の違いなどからトラブルもあったことは事実ですが、中国人だって団地生活が長くなれば、最低限のルールは覚えてくれます。(85〜86ページより)
もちろん芝園団地だけの問題ではなく、同じような問題は日本全国に存在する。そして不当な扱いを受けているのは、中国人だけではない。印象的なのは、愛知県豊田市の保見(ほみ)団地でゴミステーションの掃除をしていた男性の話だ。
藤田パウロ(七三歳)。同団地に住む日系ブラジル人だ。「きれいにしないとね。カゴの外にごみははみだしちゃダメ。飲み物が入ったままのペットボトルもダメ」 最後に周囲を水で洗い流す。完璧だ。ここまで清潔なごみ置場など見たことがない。 藤田はもう二〇年も前から、こうして早朝の掃除を欠かさない。いうまでもないが、当然ボランティアだ。誰に頼まれたわけでもない。自分の意思で続けている。(210ページより)
著者の「なぜ、そこまできれいにするのですか?」という問いに対し、藤田は「私自身、汚れた場所は好きじゃないし。なんといっても自分が住んでいる場所だから。それから......」と言葉を途切らせたのだという。
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