北アイルランドにIRA復活の足音
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月6日 12時0分
1月にロンドンデリーの裁判所近くで起きた車の爆破事件にも新IRAの関与が疑われている CHARLES MCQUILLAN/GETTY IMAGES
不満を抱く感受性の強い若者たちの失業は、新IRAなどの組織に参加するきっかけになり得る。これはある意味で、和平プロセスが招いた結果だ。和平はカトリック系中間層に力を与える一方、社会経済的な側面ではより深刻な不満の解消や多くの労働者階級を置き去りにした。
住宅問題も大きな要因
「私に言わせれば、和平プロセスではなく、貧困プロセスだ」と、極左の共和派政党シーラ(新IRA傘下にあると警察はみている)の広報担当パッディ・ギャラガーは言う。
ロンドンデリーのカトリック系住民が多い地域では、昨年7月に暴動が6日間続いた。後日、新IRAが関与を認めたが、むしろ労働者の怒りがあちこちで炸裂したという印象だった。
「労働者階級は今も貧困に苦しんでいる」と、ギャラガーは言う。「雇用も国民保健サービスも、教育も住宅も不足している。数十年たっても、まだ同じ問題を抱えている」
最新の統計によれば、カトリック系の失業率は8.8%と、全域平均(7.5%)やプロテスタント系(5.7%)よりいまだに高い。60年代後半に始まった北アイルランド紛争直前よりは改善されているものの、カトリック系が多いベルファストやロンドンデリーの失業率は約11%、男性若年層に限れば実に16.9%に上る。
そして住宅問題がある。北アイルランドで最も厄介な問題だ。カトリック系は人口のほぼ半数を占め、一部の都市で公営住宅を必要としているのは圧倒的にカトリック系だ。だが入居を申し込んでも、プロテスタント系より平均で半年も長く待たされる。カトリック系への差別が続いていることが分かる。
しかし若者が民兵組織に引き寄せられる理由は、経済的困窮や宗教的差別、住宅不足だけではない。ギャラガーは、いま広がっている心の病や薬物汚染との関係を指摘する。
「現在の貧困は対処し切れないほど大きな問題だ。人々は働く場所も住む場所もなく、まっとうな教育も受けられないという状況に耐え切れず、その現実から逃避するために薬物に手を出しているのではないか」
精神科医の間には、紛争による心的外傷を指摘する声が上がっている。作家のデービッド・ボルトンは著書『紛争と平和と精神衛生』で、北アイルランドでは少なくとも3万4000人が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患い、紛争で受けた心の傷が原因とされる不安障害に苦しんでいる人々は推定21万人いると指摘している。
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