実写版『空母いぶき』をおススメできないこれだけの理由
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月6日 20時40分
その敵国たるカレドルフはどこにある国かというと、映画中一瞬だけ(注意しなければ見逃すぐらいのショット)地図にて説明があるが、おおむね以下の通り。
劇中で説明されるカレドルフと初島
上図の通り、フィリピンのルソン島北東部にその国(島々)が存在し、当該国と小笠原諸島のおおむね中間に波留間群島・初島が位置するという設定になっている。当然のことだが赤丸で囲った部分には現実には島や群島は存在していない。
つまりカレドルフも初島も架空の存在だが、このカレドルフが「北方艦隊」という強力な機動艦隊を有し、空母「グルシャ」に「ミグ35」を60機搭載。その他通常型潜水艦を少なくとも1隻、その他に日本本土を射程にする洋上発射型の長距離ミサイルを保有しているという設定である。
しかし、「建国から3年」という、東ティモールのような小国が、なぜ1個空母機動艦隊を保有するだけの国力を持つのか。そして具体的にはどのような政治体制で、どのような人種の住む国家なのか(敵兵の1人がフィリピン人風の青年として描かれるのみ)、劇中での説明は一切ない。
3】かわぐちかいじ作品の真骨頂がすべて台無し
原作では、近未来において中国が日本をしのぐ海軍力と政治パワーを持ち、いわゆる「第一列島線」の内側を自国の内海にしようと実力行使に出る。こういった原作の背景は、もちろん、ゼロ年代の後半、中国が日本をしのぐ経済力を持ち世界第二位の経済大国になったこと。
そして中国が、南シナ海、特に南沙諸島・西沙諸島に代表されるような、近隣国(フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾、そして日本)において、軍事的な威嚇を現実に繰り返している(もちろんそこには尖閣諸島が含まれる)、という国際情勢の現実的な機微を漫画の中に落とし込んでいるからこそ「十分にありえる」という内容になっている。
にもかかわらず、映画版ではそれらのすべてを無視して、カレドルフというルソン島北東にある正体不明の島嶼国家が、日本を脅かす存在という設定になっている。この時点で、映画的リアリティは全くない。
そしてカレドルフと中国は、別個の国家として描かれている。これでは自衛隊が怪獣や宇宙人と闘うのと何ら変わりなく、その意味でなら庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』(2016年)がいかに精密かつ完成度の高い作品であるかが分かろうというものだ。
4】散漫な構成と陳腐な演出
原作からの改変点はなにもこれだけではない。映画版は、大まかにいって以下4つの視点から描かれる。
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