実写版『空母いぶき』をおススメできないこれだけの理由
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月6日 20時40分
5】またぞろ陳腐な反戦平和に終始か?
筆者所有の単行本類。筆者撮影。
かわぐちかいじ先生は、その代表作『沈黙の艦隊』『ジパング』そして『空母いぶき』で、常に日本という国家の姿や、日本人の実存そのものを問うてきた作家である。そしてそれは、常に「戦後日本の国体とは何か?」という問いかけと同義であった。
だからこそかわぐち先生の作品は、当世の国際事情に即応した「一歩先を行く、現実にあり得ることが十分に考えられるシュレーション」漫画になっているのだ。
1)『沈黙の艦隊』では、冷戦末期、アメリカの庇護のもと「籠(アメリカ)の中の鳥」としてぬくぬくと平和主義を貫いてきた日本が、「原潜国家やまと」の登場を機に、いやおうなく自主的決断を迫られ、同時に「対米自立」という戦後日本が避けては通ることのできないテーマを問うた作品である。
2)『ジパング』では、第二次大戦時代にタイムスリップした海上自衛隊のイージス艦「みらい」とその乗組員を通じて、「敗戦国日本」という歴史改変の可能性をも含むifを挿入することにより、戦後日本のありようそのものを問うた作品である。
3)そして『空母いぶき』では、現在連載中であるものの、「平和を願うことだけでは、もはや平和を達成できないという国際情勢」という、冷戦構造崩壊以降の多極化した世界において、日中衝突を題材として、戦後日本が国是として掲げてきた「憲法9条の精神」そのものについて、多方面的視点からそれを問うた作品になっている。
これは『沈黙の艦隊』以降、実に30年余りが過ぎ、作者のかわぐち先生の世界観が、時局国際情勢によって変化したことの何よりの証明である。また憲法9条に対して護憲的であり、改憲的であるか否かを問わずして、戦後日本とそこに生きる日本人そのものの実存を、冷戦崩壊以後30年を経て変化しつつある読者=日本人へ向けた現代的問いであることに他ならない。
この、「平和を願うことだけでは、もはや平和を達成できないという国際情勢」というある種『空母いぶき』という作品の核心的テーマについて、映画版では似たようなセリフを佐藤浩市氏演じる垂水総理が放つが、驚くべきことに映画版の最終的な結論は、「平和を願えば平和は達成されるに違いない」という、陳腐化した反戦平和のお題目が、お約束(?)のように繰り返されるだけで、原作の問うテーマ性と真っ向から分裂、矛盾されたまま内在しているのである。
この記事に関連するニュース
-
マキシマム ザ ホルモン、生田斗真をゲストに迎えたニューシングル6月19日に発売決定
ガジェット通信 / 2024年4月30日 21時0分
-
生田斗真「とてつもない怪物級の映画」独立後初主演 ヤン・イクチュンとダブル主演
日刊スポーツ / 2024年4月30日 20時0分
-
原作クラッシュ…ではないけど「モヤモヤ」 一部の原作ファンにしこりを残したアニメ3選
マグミクス / 2024年4月16日 19時10分
-
生田斗真&ヤン・イクチュン、攻防戦の先に待ち受けるのは…『告白』ポスター公開
cinemacafe.net / 2024年4月15日 12時0分
-
「完成度高っ!」未完の大作の代名詞『ガラスの仮面』40年前のアニメ第1作を振り返る
マグミクス / 2024年4月9日 12時10分
ランキング
-
1プーチン氏、戦術核演習を指示=「西側への対抗措置」
時事通信 / 2024年5月6日 19時13分
-
2中国、カナダの調査は「うそ」 総選挙に介入と報告書
共同通信 / 2024年5月6日 20時33分
-
3アメリカの大学で広がるガザ抗議デモ、社会への不満が根底か…大統領選の争点に
読売新聞 / 2024年5月7日 5時0分
-
4バイデン政権、米国製弾薬のイスラエル輸送を停止か…ハマスとの戦闘開始後で初
読売新聞 / 2024年5月6日 17時10分
-
5中国軍機、照明弾で豪ヘリ妨害=高度差60メートル、「危険」と抗議
時事通信 / 2024年5月7日 9時36分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください