富裕層向け巨大開発が中流層をニューヨークから締め出す
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月8日 16時30分
高級化を企業誘致の呼び水に
そもそも、富裕層向けの巨大再開発で中流層に十分な雇用と住宅を提供できるものなのか。そんな手品みたいなことが、どうすれば可能なのか。
可能だとしても、容易ではあるまい。ボルティモアのインナーハーバー開発からボストンのビッグディグまで、アメリカの多くの都市では何年も前から、その景観や雰囲気をがらりと変える再開発が進められてきた。
もちろん、そこには正当な理由があった。長らく放置されてきた遊休地は活用したいし、老朽化した道路や生活インフラの更新は待ったなし。開発推進派のキャサリン・ワイルドに言わせれば、「50年も放置され、雇用にも税収にもまったく貢献していない空き地があったら、しかるべき投資をするのが得策と考えざるを得ない」のだ。
それは、フロリダが02年の著書『クリエイティブ資本論――新たな経済階級の台頭』(邦訳・ダイヤモンド社)で提唱したアプローチだ。この本で彼は、アーティストや知識人、大卒の若者といった「クリエーティブ階級」を呼び込める場所ができれば都会に活気が戻ると主張した。そして彼らがやって来れば優良企業もやって来るから、結果的に新たな雇用が生まれ、税収も増えると論じた。
行政が率先して公園を整備し、高級レストランを誘致し、活気に満ちたナイトライフを提供すれば、若くてクリエーティブな人たちにアピールできるだろう。一方で寛大な税の減免措置を用意すれば資金の潤沢な開発業者が乗り出すだろうし、先端企業も喜んで進出してくるはずだ。いい例が、サンフランシスコやテキサス州オースティンの再開発だ。フロリダの予想どおり富が集積し、雇用も税収も増えている。
だが、弊害もあった。超大型の再開発が行われると、そこの商店や飲食店などで働く人々は家賃の高騰で近隣に住めなくなり、遠くに追いやられた。仕事を続けるには、高い交通費を我慢して通勤するしかなかった。
ニューヨーク大学ファーマン不動産・都市政策研究所によれば、市内の年収中央値の80%程度を稼ぐ世帯でも00 年には再開発地区周辺の空き物件の77%以上を借りることができた。だがこうした世帯が手を出せる物件は、14年には50%以下に減っていた。
同じ時期、多くの都市で持ち家率が急落し、都市部で家を買える世帯は減り続けた。00年から15年にかけて、ワシントンでは不動産価格の中央値が228%も高騰した。オレゴン州ポートランドでは130%の上昇だ。
この記事に関連するニュース
-
「名商店街は壊され分断される」タワマン建設を都知事候補小池百合子氏や首長がスイスイ認める恐るべき目論見
プレジデントオンライン / 2024年7月4日 10時15分
-
都知事選で「都内の"不動産価格"」今後どうなる? 「住宅や再開発政策」はもっと争点になるべきだ
東洋経済オンライン / 2024年7月2日 13時0分
-
新築住宅の高級路線拡大 住友林業、全国展開へ
共同通信 / 2024年6月25日 8時38分
-
韓国政府の少子化対策、専門家やネットの反応は?―中国メディア
Record China / 2024年6月23日 8時0分
-
シーラの超富裕層向けレジデンス「THE SYLA SHIBUYA-TOMIGAYA」が渋谷区・富ヶ谷に誕生
ITライフハック / 2024年6月10日 16時0分
ランキング
-
1北朝鮮がウクライナに派兵の可能性…ロシア占領地域、プーチン氏が要請か
読売新聞 / 2024年7月6日 5時0分
-
2バイデン大統領、選挙戦継続を改めて強調 撤退へ圧力強まる
日テレNEWS NNN / 2024年7月6日 17時2分
-
3ゼレンスキー氏、スターマー英新首相と電話会談 支援継続の確約に謝意
産経ニュース / 2024年7月6日 9時43分
-
4フランス政界を激震させる国民連合 「極右」と呼ばれる理由は?
日テレNEWS NNN / 2024年7月6日 18時14分
-
5EU議長国のハンガリー首相が独断で訪露 ウクライナ支援の先行き懸念
産経ニュース / 2024年7月5日 22時55分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください