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抗生物質が効く時代はあとわずか......医療を追い詰める耐性菌に反撃せよ

ニューズウィーク日本版 / 2019年7月5日 10時20分

「考えたこともなかったが、そう言われて初めてひらめくものがあった」とライリーは言う。以来、彼女は今日まで、ウイルスの殺菌戦略を耐性菌対策に応用する方法を模索してきた。



感染症を引き起こす細菌を狙い撃ちできるとして期待が寄せられる「ファージ」 KATERYNA KONーSCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES

抗生物質は核爆弾投下と同じ

細菌を殺すウイルスはファージ(正式にはバクテリオファージ)と呼ばれる。ファージはタンパク質に包まれた遺伝情報物質で、細菌の細胞膜を突き破って侵入し、相手の遺伝系を乗っ取り、自らを複製・増殖させる。ライリーはまた細菌が抗菌活性のあるタンパク質(バクテリオシン)を産生して仲間をやっつける仕組みも研究している。

ライリーの目標は危険な細菌を殺すことだけではない。有益な細菌を守ることも視野に入れている。人体の内部や表面に常在する細菌はおよそ400兆個。その大半が有益・無害で、ライリーによると、有害なものは1万分の1%くらいだという。

しかしペニシリンやテトラサイクリンのような在来の抗生物質は、細菌の種類を区別せず、全てを殺そうとする。だからこそ細菌は、生き残りを懸けて耐性を獲得するわけだ。

「感染症で抗生物質を使うのは戦争で核爆弾を使うのと同じ」だとライリーは言う。「それは人体の常在菌を半分以上も死滅させる。有益な細菌が不足すると、肥満や気分の落ち込み、アレルギー体質になりやすい」

一方、ファージやバクテリオシンは(少なくとも理論上は)有害な細菌だけを攻撃できる。無害な細菌まで殺すことはなく、耐性菌が生まれやすい環境をつくり出すこともない。

バイオテクノロジー企業のイミュセル(メーン州ポートランド)は、乳牛の乳腺炎治療に使えるバクテリオシンを開発した。この病気によってアメリカの酪農業界は年間約20億ドルの損失を被っている。ライリーによれば、実験室レベルでは今でも、ファージやバクテリオシンを操作すれば、ほとんどの病原菌に対抗できる。しかも「いずれも20億年前に出現した殺しのメカニズムだから、化学的に安定している」。

ファージを用いた治療法の臨床試験はジョージア(グルジア)やバングラデシュでも行われている。欧米では足の潰瘍の治験で良い結果が出ている。より深刻な病気はまだ治験対象になっていないが、17年に米食品医薬品局(FDA)が特別に認めた多剤耐性菌による感染者のファージ治療が成功し、全米の研究者への刺激になった。

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