抗生物質が効く時代はあとわずか......医療を追い詰める耐性菌に反撃せよ
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月5日 10時20分
病院で耐性菌をより効果的に封じ込める方法も研究されている。アメリカの病院では、患者のおよそ5%が院内感染の被害に遭う。病院は免疫力の低下した病人が集まる場所なのだから、驚くには当たらない。医師や看護師はさまざまな傷に指や器具で触れ、その器具は院内で使い回されている。
細菌の付着しない素材を開発
院内感染が増えた背景には、高齢者の増加と医療の進歩がある。ジョンズ・ホプキンズのゼニルマンが独自に調査したところ、患者の半数以上がペースメーカーや人工歯根など何らかの医療器具を体に埋め込んでいた。こうした「インプラント」は感染症の温床になりやすい。
「歴史を顧みても、今の病院に集まる患者ほど病んだ集団はいない」とゼニルマンは言う。APICのホフマンも「病院が正しい安全対策を行っている割合は5割程度。これを改善するのが一番の難題だ」と指摘する。
病院側も取り組みを開始した。今では多くの病院がロボットを使って紫外線で壁を殺菌している(紫外線は人体にも有害なので、人間は殺菌中の部屋には入れない)。シカゴの南にあるリバーサイド医療センターでは、ゼネックス・ディスインフェクション・サービス社のロボット2台が毎日30以上の部屋を消毒している。
そもそも診察台の表面や白衣などの衣類に細菌が付着しなければ、病院の衛生管理も楽だろう。コロラド州立大学の生化学者メリッサ・レイノルズは新しい抗菌素材を開発している。
抗菌素材の開発はレイノルズにとって、偶然降って湧いた使命だ。もともと彼女は、外科医が血管を拡張するのに使う医療用メッシュに血が凝固するのを防ぐ方法を調べていた。
すると、メッシュに銅のナノクリスタルを塗ると血球が付着しない可能性があることが分かった。しかもナノクリスタルのコーティングには細菌も着かないらしい。やがて研究室の学生がひらめいた。綿布をナノクリスタルの溶液に浸せば、細菌が着かない素材になるのでは?
レイノルズは「こうして強い抗菌性を持つ新素材を発見したことから、新しい方向性が見えた」と語る。
抗菌素材について行ってきたこれまでの実験は成功している。「ナノクリスタル処理した布をあらゆる種類の細菌に繰り返しさらしても、菌の付着は一切ない」と彼女は言う。「仕組みはまだ解明中だが、異なる種類の細菌に有効なことが分かっている」
レイノルズは既に、ある大手医療用品メーカーと共同で、ナノクリスタルを製造工程に組み込むことに成功している。現在は、ナノクリスタルを病院で使われるステンレスや塗料などに染み込ませる方法を研究している。これが実現できれば、これらの素材は従来の院内設備よりも抗菌効果がずっと長持ちするはずだ。
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