機密情報の漏洩を止める最善策は、スパイの処罰ではなく「許し」
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月13日 10時34分
チャーニーもこうした批判は承知している。「諜報コミュニティーの考え方は警察や検察と似て」おり、「一線を越えた悪い奴」を捕まえることに重点が置かれていると、彼は言う。
セキュリティー対策を請け負う民間業者の間でもNOIRの評価は低い。二重スパイがぞろぞろ自首してきたら、彼らの誇る「ハイテクを駆使したプログラム」の出番がなくなるからだ。
しかしチャーニーによれば、一部のFBI元高官は個人的な意見として彼の案を「なかなかいい」と評価している。
実際、FBI防諜部門の元責任者であるフランク・フィリウッツィは、NOIRを高く買っている。「当初は裏切り者への寛大な処置には大反対だったから、チャーニーのコンセプトの抜け穴を探した」と彼は言う。「だが彼は私の意見をほとんど論破した」
NOIRはオルドリッチ・エイムズ(ロシアのスパイとして94年に逮捕されたCIA職員)やハンセンのような「最悪の」スパイに最も効果があるとフィリウッツィは言う。
トランプへの適用は?
一方、(心の隙を突かれたのではなく)確信犯の二重スパイにはNOIRも効果がないと指摘する関係者も多い。例えばファルシ(ペルシャ語)の専門家で、アメリカの対テロ作戦に幻滅してイスラムに改宗したウィットなどには効かない。
信念に基づく二重スパイという点で彼女は、第二次大戦中と大戦後にソ連に原子爆弾の情報を伝えた「原爆スパイ」や、ソ連の共産主義に同調した伝説的スパイのキム・フィルビーをはじめとするイギリスのスパイ外交官たちに近いと言える。
悪名高いNSA(国家安全保障局)の情報漏洩者エドワード・スノーデンや、陸軍の情報分析官でウィキリークスに大量の文書をリークしたブラッドレー(現チェルシー)・マニングもしかりだ。彼らもまたアメリカの政策への嫌悪感という一種のイデオロギーに駆り立てられていたようだ。
だがチャーニーはこう反論する。「確かに彼らはスパイ行為の理由にイデオロギー的要素を挙げるかもしれない。だが彼らも人間で、もっと深い心理に目を向けることが重要だ」
そこで気になるのが、ドナルド・トランプ米大統領の場合だ。アンドルー・マケーブ前FBI長官代行は先に、トランプがロシア側に協力している「可能性」に言及している。トランプがジェームズ・コミーFBI長官(当時)を解任した後、捜査妨害の疑いありとして大統領に対する防諜部門による捜査が立ち上げられたという。この問題にNOIRのような解決策が適用されることはあるのだろうか。
歴史が参考になるとすれば、そしてトランプがロシアと共謀した確たる証拠があるとすれば、それをもたらすのはクレムリン内部の誰か(つまりスパイ)である可能性が高い。
「こちらの捜査で捕まるスパイはまずいない」とチャーニーは言う。「たいていは裏切りによって捕まる」。ただし、計り知れない損害がもたらされた後に何十年もたってからだが。
<本誌2019年3月26日号掲載>
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ジェフ・スタイン
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