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『NHKから国民を守る党』はなぜ議席を得たのか?

ニューズウィーク日本版 / 2019年7月31日 13時15分



つまりはこれらは、馬鹿げていて下品で粗野な動画を見て本気で笑う、というユーチューブ動画の視聴行為の延長版だ。動画の中で馬鹿なことをする人。動画の中で非常識で警察沙汰になるようなことをする人。そしてそれらを本気で支持したり支援したりするファン。そして動画の中の世界をこの世のすべてだと思っている人。全部つながっているのではないか、と私は思う。

7)マック赤坂氏の先行事例

その兆候は、N国が初めてではない。おりしもN国が全国的な耳目を集めるきっかけとなった2019年4月の統一地方選挙で、「スマイル党」のマック赤坂氏が港区議に当選したことだ。マック赤坂氏は善良な人だとは思うが、到底政治家としての適正はない。

その理由は、様々な理屈を駆使する必要もなく、私たちが当たり前に保持するコモンセンス、つまり皮膚感覚での常識としてあった「政治的常識」に立脚している。

マック赤坂氏は2007年の港区議会議員にも出馬している。その時の得票はたった179票。しかし2019年には1,144票を獲得。しかも、立候補者54人中30番目での当選。

この12年間で、「ただただ爆笑して泡沫と笑う」ことが「暗黙のマナー」であった、この国の有権者の「政治的常識」が崩壊し、カメラの前で馬鹿な格好をして面白いことを言う人を、「あはっ、なんか面白ーい!」という感覚だけで、実際に票を投じる人が港区だけで約1,000人増えたのである。これの国政拡大版が、N国支持者のもう半分の実相なのではないか。

つまり「政治的常識」が存在しない、思想もなく、主義もなく、主張もなく、思慮もなく、そして知性も教養もない、漠然とした「政治的非常識層」が、N国支持者のもう半分だと考えると、この国全体の、統計でも、データでも、試験でも測ることのできない、どうしよもなく後戻りのできない不可逆的な常識の溶融が進んでいると考えるよりほかない。

そう考えると私は、慄然と肌に粟を感じる。この国全体の骨格が溶けていくような、そういった恐怖を感じる。NHKが好きだとか、嫌いだとか、もうそんなことは関係がない。だって「保守派やネット右翼」のトレンドの中で、NHK攻撃はとうの昔に終わっているからだ。

私たちは今、「政治的非常識層」という新しい人種―そしてそれはたぶん、日本人全体の常識や知性が、どんよりと溶融する恐怖と共に―存在することを、眼前に見せつけられている。(了)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]
古谷経衡(ふるやつねひら)文筆家。1982年北海道生まれ。立命館大文学部卒。日本ペンクラブ正会員、NPO法人江東映像文化振興事業団理事長。著書に「日本を蝕む『極論』の正体」 (新潮新書)の他、「草食系のための対米自立論」(小学館)、「ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか」(コアマガジン)、「左翼も右翼もウソばかり」(新潮社)、「ネット右翼の終わり」(晶文社)、「戦後イデオロギーは日本人を幸せにしたか」(イーストプレス)、初の長編小説「女政治家の通信簿」(小学館新書)、「日本型リア充の研究」(自由国民社)など多数



古谷経衡(文筆家)


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