不寛容な排他主義:カシミールの自治を剥奪したモディには「裏の顔」がある
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月16日 16時15分
だが現地では、抗議行動を防ぐために治安部隊が増強され、何百人もの政治家や活動家が身柄を拘束された。電話回線が遮断され、インターネットの接続も規制を受けている。このように一方的な弾圧で、本当にカシミールを安定させられるのか。パキスタンのイムラン・カーン首相は、インドの対応を「人種差別政治」「民族浄化」と強く非難した。
ガンジー暗殺犯も宗教過激派
ガンジーやネール(初代首相)らが率いた独立運動の政党、国民会議派は、多民族・多宗教国家を守るために、インド憲法に信教の自由の保障と宗教による差別の禁止を盛り込み、政教分離のセキュラリズム(世俗主義)を国是に掲げた。一方でインドには、ヒンズー教を絶対的なものと考え、イスラム教徒など少数派を敵視する右翼的なヒンズー・ナショナリズムも早くから存在していた。
独立達成から間もない1948年1月、ガンジーを暗殺したのは、このようなヒンズー至上主義団体の民族奉仕団(RSS)に所属していたとされる男だった。印パ分離独立後もイスラム教徒との対話のために奔走を続けるガンジーのことを憎悪していたという。
実は、このRSSの事実上の政治部門と見なされているのがモディ現政権の与党BJPだ。独立以来長く与党だった国民会議派の人気に陰りが見えた1980年代の末以降、BJPは急速に台頭した。
筆者は当時、時事通信社のインド特派員としてこの動きに注目し、1989年11月の総選挙の選挙戦取材で、首都ニューデリー市内をBJPの宣伝カーについて回ったことがある。資金力にものをいわせて派手な演出をする国民会議派のキャンペーンと違って、BJPの運動は下町の家々を一軒一軒訪ねる典型的なドブ板選挙。夜には商店街の小さな広場で集会を開く。白ひげのアドバニ総裁(当時)が演壇から「国民会議派は腐敗にまみれている。今が変革の時だ」と訴えた。経済開放や都市中流層に対する税の免除を唱え、新鮮なイメージを売り込む演説に、聴衆は熱心に聞き入り、和やかな雰囲気だった。
だがそのころ、首都から500キロ東のヒンズー教聖地アヨーディヤでは、RSS傘下の宗教団体「世界ヒンズー会議」(VHP)が、モスク(イスラム礼拝所)を破壊してその場所にヒンズー寺院を再建しようという過激な運動を開始し、約600人が死亡する流血の惨事が起きていた。これがBJPの「選挙運動」でもあったことは疑いない。
この過激な運動も奏功して、選挙の結果、BJPは下院(定数545)で、それまでのわずか2議席から86議席へと大躍進した。
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