不寛容な排他主義:カシミールの自治を剥奪したモディには「裏の顔」がある
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月16日 16時15分
その後、ヒンズー至上主義者らは1992年、アヨーディヤのモスクをついに破壊した。インド各地で宗教暴動が連鎖的に発生する中、BJPは96年総選挙で国民会議派を破って第一党に躍り出る。98年総選挙にも勝利して、念願の政権を手中にした。
危機扇動で総選挙に圧勝
こうしてBJPは、多数派のヒンズー教徒民衆の琴線に触れるイスラム敵視の運動を踏み台に、国民会議派と勢力を二分する大政党にのし上がった。
BJPが政権を取ったときのインドの政策は、ヒンズー・ナショナリズムを高揚させるような、右翼的で反パキスタンの色彩が濃いものが多くなる傾向がある。
例えば1998年の総選挙勝利からわずか2カ月後、BJPのバジパイ首相(当時)は、西部ラジャスタン州の核実験場で24年ぶりの地下核実験を強行し、「強いインド」を誇示した。それを激しく非難するパキスタンも直後にイスラム圏初の地下核実験を成功させた。新たな核保有国が対峙(たいじ)する南アジアの緊張は一段と高まった。
印パの対立は翌1999年5月から7月にかけて、カシミール地方の停戦ラインのインド側にあるカルギルで武力衝突に発展し、両軍合わせて1000人以上が死亡した。
今回のジャム・カシミール州の自治権剥奪に先立つ今年2月にも、同州プルワマでインド治安部隊40人が殺害される自爆テロが発生した。モディ首相は、パキスタンを拠点とするテロ組織の仕業だとして、1971年の第3次印パ戦争以来48年ぶりにパキスタン領内への越境空爆を命じた。
そして、この強硬姿勢が再びヒンズー教徒民衆から喝采を浴び、BJPはそれを足掛かりに、当初は苦戦も予想された今年4~5月の総選挙で圧勝した。勢いに乗るモディ首相は一気にジャム・カシミール州の自治権剥奪に踏み切った。このようにBJPには、危機を扇動することで党勢を拡大してきた歴史がある。
「裏の顔」が頭をもたげたモディ首相
もちろんBJPも、ヒンズー・ナショナリズムをあおるだけで大政党になったわけではない。モディ首相はもともと西部のグジャラート州の州首相として、外国企業誘致などで地元経済を発展に導いた実績を持つ。2014年総選挙に勝ち、インド首相に就任した後も、毎年7%の経済成長を実現させてきた。
もっともモディ氏は、青年時代にRSSの活動に関わっていたといわれる。グジャラート州首相当時の2002年には、州内で起きた流血の宗教抗争の際に警察を出動させず、住民保護を意図的に怠った疑いがあり、それがヒンズー教徒によるイスラム教徒1000人以上の虐殺につながったとして、イスラム教徒側から反発を浴びた過去もある。
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