フランス美食外交に潜む深謀遠慮──異色外交官が明かす食と政治の深い関係とは
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月21日 18時0分
人口100億人時代の食
フォールは76年に外務省に入省した。アメリカやスペインなどで外交官としてのキャリアを積んだ後、90年から10年間ほどは外交の世界を離れ、民間の保険会社社長や、ミシュランガイドと並ぶ仏レストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』社長を務めたが、00年、ジャック・シラク元大統領の呼びかけで外交の世界に復帰。駐メキシコ大使や駐日大使を歴任し、外務官僚トップにも登り詰めた。
15年からはフランス観光開発機構理事長としてフランス料理の魅力を世界に発信し、16年にはアルゴリズムに基づく世界レストランランキング『ラ・リスト』を創設した。外交官と美食家という、ふたつの顔を併せ持つ人物だ。
「1830年に地球上の人口は10億人だった。1960年には30億人になり、現在70億人。そして、2050年には100億人になる。これは尋常ではない。100億人にどうやって食糧を提供するのか。どんな食べ物を、どのように調達するのか。極めて複雑な問題で、今、対処しないといけない。同様に、化学製品を使わない安全で健康的な食品の大切さをトップ層が繰り返し訴える必要がある。パリ・フード・フォーラムを、ダボス会議のような位置づけにしたい。ダボスが経済なら、パリは食糧、健康そして地球について話し合う場だ」
フランスは元来、美食というカードを使った外交に長けている。
「ナポレオンのもとで活躍したフランスの外交官、タレーランをご存じでしょう。彼は外交の現場からナポレオンに、こんな興味深い手紙を書いている。『外交官はいらない。腕のいい料理人を送ってほしい。そうすれば良い条件を取り付けてみせる』」
ナポレオン失脚後、ヨーロッパの国際秩序の建て直しのため、1814年から開かれたウィーン会議に、フランスは外相としてタレーランを送り込んだ。外交の達人であり、美食家としても名高いタレーランは、天才料理人といわれたアントナン・カレームをウィーンに随行させたといわれる。
「(ナポレオン戦争の)代償を払うよう要求するオーストリアやプロイセンと対峙したタレーランは交渉の中心的存在になった。なぜそれをなし得たか。彼はウィーン会議の期間、各国の代表をフランスのテーブルに招き、最高のフランス料理でもてなしたのです」
響宴外交のはしりとも言われるこの会議で、敗戦国という立場にもかかわらず、タレーランは交渉を自分のペースに持ちこみ、フランス革命以前の体制に戻すという自国の主張を通すことに成功した。
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